-short story-
□銀河鉄道の夜
1ページ/3ページ
「すいません!!新宿のAスタジオまでお願いします」
「あいよ!!」
マネージャーさんの車を捕まえられず、ギリギリでタクシーに乗り込んだ。
今日も私の一日は忙しい。
そして、
私は幸せだった。
毎日が忙しいとは良いことだ。
ただ…
少しだけ…疲れていたけれど。
「いやー!!…AKB人気はまさにとどまることを知りませんなぁ!!」
「…そう…ですか…」
「この前も何とかっていうメンバーさんを乗せましたがねぇ…いやぁ…綺麗だったなぁ…私があと40年若ければねェ!!」
そう言って笑う、人がよさげな運転手さん。
だけど、
私はその相手も出来ないほどに疲れていた。
適当に相槌を打ちながら窓の外を見ていた。
真っ昼間の街、その青い空が眩しかった。
「…いやぁ…しかしまぁあれですねぇ…どこもかしこも不況の波で…私のとこももう全然ですわぁ…」
「…はぁ…そうですか…」
「今、日本で景気が良いのはAKBさんくらいですよねぇ〜…羨ましい限りですよ…」
私、SKEなんですけど…と突っ込みをいれるのも面倒なので黙って頷いておいた。
しかし…
よく喋る運転手さんだなぁ…
ふぅぅ、と息を吐きながら再び窓の外を見ると、まだ真昼なのに街がだんだんと暗くなっていく。
(…えっ…!?…何コレ…日食??)
「…いやぁ…しかしねぇ…ホント、私としては……………」
運転手さんの声が徐々に聞こえなくなり、
私は身体に、
何か引っ張られるような感覚を感じた。
******
『銀河ステーション…銀河ステーション…お降りのお客様は……』
気がつくと私は木造の硬い椅子の上に座っていた。
天井には小虫が群がる白灯。
まるで、レトロな鉄道のようだった。
そして、タクシーに乗っていたはずの私が、なぜこんな場所に居るのか見当がつかなかった。
『…発車時刻となりました。…サウザンクロス行き銀河鉄道、まもなく発車いたします。…』
ギシギシという音がして、まもなく列車が動き始めた。
私はただ、窓の外を眺めていた。
そこはもう別世界だった。
赤や青や橙色に光り輝く星たち。
それは今まで見てきた、どんな星や宝石よりも美しく、壮大だった。
広大な銀河の中を飛び立ってゆく銀河鉄道の中で、その中で私は言葉もなく、ただただ窓の外を見ていた。
.