-short story-

□似て非なるもの
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「れっ…玲奈ちゃん!?」


「あれ??…センター??」


「「……??」」




何故か、お互いに会話が噛み合わない。
目の前にいるのは間違いなく玲奈ちゃん…のはずなのに。

けど、冷静に考えて玲奈ちゃんが喧嘩なんて出来る筈がない。

腹筋すらマトモに出来ない女の子なのだから…。

と、なると、
やはり別人なのだろうか?




「…あの…」


「なにー??」




じっと私を不思議そうに見つめ、爪を噛んでいるその姿はどこからどう見ても玲奈ちゃんだが…。




「あなたの…名前は??」


「松井玲奈ー!!」


「…えっ!?…やっぱり玲奈ちゃん!?」


「センター??…でも、センターならさっきの奴等くらい、一人でぶっ潰してるし…」


「私、珠理奈だよ!?…センターって誰!?」


「珠理奈??…松井珠理奈…じゃあやっぱりセンターじゃん!!」


「「…?…?…?」」




****




あれこれ聞き合った結果、彼女は玲奈ちゃんであって玲奈ちゃんでないということが分かった。

言うなれば、同姓同名の別人ってことだ。

彼女はヤンキー高校に通っていて、3年生。

名前は松井玲奈、だが皆からはゲキカラと呼ばれていると言った。

そして、その高校の2年には、私であって私でない、松井珠理奈もいるらしい。

ゲキカラさんは私をしきりに指差しては「どう見てもセンターだっ!!」とはしゃいでいた。

ならば、ゲキカラさんにそっくりそのままお返ししよう。「どう見ても玲奈ちゃんだ。」




「…へー…珠理奈はアイドルなんだぁ…」


「はい!!、ちなみに玲奈ちゃんも同じですよ!!…あ、ゲキカラさんじゃない方の!!」


「まぎらわしー!!…でも、ちょっと会ってみたいなー!!」


「いや…ドッペルゲンガーに会うと、どっちかが死んじゃうんで…やめた方がいいです…」


「ふーん…あっ!!メロンパンだー!!」




ゲキカラさんは私の右手にあったメロンパンを見て瞳を輝かせた。

玲奈ちゃんと同じ顔でそんな瞳をされたら…はっきり言って断れるわけがない。

ごめん!!玲奈ちゃん!!




「…これ、助けてくれたお礼に…どうぞ…」


「いいのっ!?やったー!!!!」




無邪気にメロンパンにかぶりつく玲…ゲキカラさんが可愛くて、私は思わず頬を緩ませた。




****




「モグモグッ…じゅりな、今度さ…モグモグ……じゅりなのライブが見たい!!」


「私は全然いいですよっ!!…ただ、玲奈ちゃんに会っちゃだめですよ!!」


「うん、わかった!!…やくそくー」




ゲキカラさんは本当に子供のように笑って、そっと小指を差し出してきた。

私も笑顔で自分の小指を差し出した。

ゲキカラさんのことをもっと知りたい、
素直にそう思った。



「…じゃあ、私もう行きますね??」




そろそろ、ホテルでミーティングの時間だから、帰らなければ。




「…やくそく…忘れないでね?」




ゲキカラさんは俯きながら、どこか寂しそうに呟いた。

私は、「忘れませんよ」と微笑んで、ゲキカラさんに手を振った。

ゲキカラさんも、顔を上げて、無邪気な笑顔を見せてくれた。




だけど、
その時、何故か私は
もう二度とゲキカラさんに会えないような気がした。






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