-short story-
□銀河鉄道の夜
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「…座っても…いい??」
「…あっ!!…どうぞ……って……えっ??」
相手の顔を見て、私の声は思わず裏返った。
そしてそれは向こうも同じらしい。
「…あれ〜??…私だ〜…」
「…えっ……嘘…!!」
「あははっ!!…マネすんなよぉ〜!!」
ケラケラと笑う『私』の姿形に、私は倒れそうになっていた。
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「あの…あなたの…名前は…??」
「松井玲奈ー!!」
「あ、あのっ…!!…私も…松井玲奈なんです…!!…けど…」
「あははっ!!…変なのー!!…でも、皆は私のこと、名前で呼ばないよー…皆、ゲキカラって呼ぶの!!」
「…ゲキカラ…さん…」
「…そーだよー!!」
何だか、ひどく懐かしい感じがした。
目の前に居るもう一人の「私」は、遠い昔、何処かで失くしてしまった私のようだった。
(…遠い昔??)
「…ゲキカラさんは…どうしてここに居るんですか??」
「…んーとね……人探し…」
「…人??」
「うん、優子さん。」
「優子さん…??」
「ケンカがめちゃんこ強くて、カッコよくて、…あったかい人。」
そう呟いたゲキカラさんの顔は、どこか寂しげだった。
「…見つかると良いですね…!!」
私は少しだけ優しく笑った。
そんな私の顔をゲキカラさんはまじまじと見ながら、「やっぱり私だー…」と何度も首を傾げていた。
…が、次の瞬間。
-ちゅっ。-
一瞬、何が起きたのか全く理解出来なかった。
唇に感じた温もりがゲキカラさんのものだと分かった時、私はとんでもない禁忌を犯してしまったのだと思った。
しかし、不思議と嫌な気持ちはしなかった。
私はその時、純粋にゲキカラさんが可愛いらしく、愛しかった。
「……何っ…です……か……?」
「…玲奈…人が人を好きになるって…どういうコト…??」
「…好き…??」
「……玲奈……もっと…ちゅーしよ??………」
赤、青、黄、橙、…
星廻りの銀河の中をただ走る銀河鉄道。
その中で、
私はゲキカラさんに魅せられ、甘く毒されていった。
(あなたは追憶の中の私…??)
「…はっ…ぁ…!!………げき…から…さっ……!!」
「…玲奈……幸せ??」
「……ハァ…ハァ……ゲキカラ…さんっ…!!」
私はゲキカラさんの身体を強く抱き締めた。
そして、瞳を閉じて、そっと囁いた。
(新世界交響楽)
「……好きですっ………ゲキカラさんっ……!!……ゲキカラさんっ……!!!!」
そっと瞳を開けるともうそこにゲキカラさんの姿は無く、
私は小さく、声にならない声をあげ、窓から身を乗り出し、
ただ色とりどりに光る銀河ばかりを見つめ、やがて星の涙を流し始めた。
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