わんぴーす

□アネモネ二話
1ページ/1ページ






「あんた、何やってんの」

「何が?」



別の日の夜。
いざ寝ようとベッドに横たわると、隣のベッドに座って読書をしていたナミに声をかけられた。



「…結局のところどっちなの」

「なにが?」

「ルフィよ」

「どっちって……あっちじゃない、かな?」



ナミが何を聞かんとしているかは、一言目の時点でわかっていた。
けど私は、いつも通りにこの会話をかわそうとする。
何やってんだ、本当に。



「※ ※ ※、あたしにも話してくれないわけ?」

「……」



あぁ、もう。
このしんみりとした感じ、ほんとうにだめ。

私は子どもだ。
恋愛とか、よくわからない。
だからきっと何も変えたくないんだ。
大人になることがきっと、



「怖いの」

「何が?」

「……なにもかも」

「…?」



ナミは静かに私の言葉を聞いてくれている。
自分の想いは自分でもはっきりとわかっていなくて、だけどどうにか言葉を絞り出す。



「好きって言って、好きって言われて。それで、これから先、一人じゃなくて誰かと一緒に生きていくっていう未来とか。そんでいつかは好きじゃなくなったり、別れてその関係がなくなって…」



今の関係に戻れなかったり。

言葉にしてみて初めて、漠然とした不安が何となくわかった気がする。
いつかの別れが怖いのだ。
大好きな人に好きじゃなくなられることも、自分がその人のことを好きじゃなくなってしまうことも。



「だから私は、ルフィに好きになってほしいけど、なってほしくないし、なりたくもない」



何も考えずに口に任せてみれば、思いの外つらつらと喋る自分に驚いた。
これが私の今の気持ちなのか。
私の言葉を聞いて、今まで黙っていたナミが口を開いた。



「…まぁ、あんたの気持ちも分からなくはないわ。そういう女の子っているもの」

「……本当?」

「ええ」



怒られると構えていただけあって、ナミの言葉に少し安心する。
こんなわけのわからない女、他にもいるんだ。



「けどこのままってわけにはいかないってことも、分かってるでしょ?」

「…うん」

「その怖さを乗り越えてでも、今一緒にいたいって思える相手なら、少し頑張ってみてもいいんじゃない?」

「………」



優しい笑みを浮かべながら言うナミに、心臓がドキンと、大きな音を立てる。



「あいつと、自分のことも、信じてみてもいいんじゃない?」



ナミのその言葉に、今まででは考えられないくらいの衝動に駆られた。
やってみなくちゃわからない、とはよくいうものである。私は口ばっかりで、何も誰も信じちゃいないのか。ばかやろう。



「……行ってくる」

「いってらっしゃい」



大切なのに、怖がって、自分勝手で、困らせて。
今しかないと、そう思った私はベッドから飛び出した。
ほんの一瞬の衝動でもいい。
それで体が動いてくれるのなら、今しかない。
今まで見てきた彼を、自分を信じろ。



「ルフィっ、」



やっぱりここにいた。
きっとここだろうと船首に着けば、案の定愛しい後姿がそこにはあった。



「※ ※ ※?」



私に気がつくと、ルフィはそこから降りてきてくれた。
月明かりに照らされたルフィは何かを考え込んでいたようで、それが私のことだったらいいのにと思う。



「あのさ、話があって」

「……ん」

「…っ、」



何かを察したような、優しい眼差しと優しい声色に、なんだか目頭が熱くなっていく。
だめだ、泣いちゃだめだ。
伝えなきゃ。



「ルフィぃ…っ」

「……しし!※ ※ ※、ゆっくりでいいからな」

「……っ、」



ルフィはなだめるように私のそばに寄って、頭を撫でてくれた。
私が何を言おうとしているか分かってるのかな。



「……いつも、ありがとう。そばにいてくれて、ありがとうっ」

「こちらこそだ!」

「っそれで、…いつもルフィが、大切な話をしようとしてるのに、ちゃんと聞かなくてごめん」

「いや、俺もいっつも…無理矢理でごめんな」

「あのね、ルフィ…」

「※ ※ ※、よーく聞けよ」



私の言葉を遮るようにしてルフィが言った。



「う、ん」



息を深く吸い込み、ルフィは私を真っ直ぐと見つめる。

私も、もう逃げない。



「好きだ」



真っ直ぐな瞳と、真っ直ぐなルフィの言葉が私の心の中に染み込んでいく。
怖いという気持ちがないと言ったら嘘になるけど、きっと彼となら、大丈夫。
一緒に、前に進みたい。



「……私も、すっ!」



言い終わる前に、ルフィに勢いよく抱きしめられた。



「うわあああああ!!」

「っ!!」



きつくきつく、抱きしめられ、今度は抱きしめ返す前にルフィが大声を発した。



「…ル、ルフィ?」

「だって、!※ ※ ※が俺のこと、好きって、」

「いやまだ言ってない…」



叫びながらも強く抱きしめた腕を離す様子のないルフィが可笑しくて、愛しくて堪らない。
この人のそばにいたい。



「ルフィ」

「ん?」

「大好きだよ」

「…!俺も、大好きだ!」



お互いにおでこをくっつけて笑いあった。
今まで遠ざけてしまってごめんなさい。
あなたの想いを、無かったことにしようとしてごめんなさい。

こんな私を受け入れてくれてありがとう。






[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ