ダイヤのA短編

□惹かれる
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「ヒャハハハハ!なんだよお前、ひっでー顔!」

「う、うるさいな!もうやだ倉持!どっかいけ!」


倉持絶賛ウザい中。

私と倉持は席が隣になってから、自然と意気投合して仲良くなった。いや、仲がいいと言うよりは、喧嘩友達。よく言って気の置けない仲。


「あんな性格ワリー奴のどこがいんだよ!さっさと新しい奴見つけろっての」

「諦めらんないから好きなんでしょ!……はぁ、もうやだ。泣きたい」


私の好きな人は一年生の頃から変わっていない。一年の時から青道野球部正捕手な彼。きっと彼は覚えていないけど、実は一度だけ話したことがある。


「なぁ、職員室ってどっちだっけ?」
「職員室……あ、あっち!」
「あっちか!サンキューな!」


という会話。入学したてでまだ右も左も分からない頃、廊下で話しかけられたのだ。顔がイケメンだとは思ったのだが、後々彼の正体を知り、段段と惹かれて行き、今ではもう一端の恋する乙女だ。


「つーかお前そん時、職員室と真逆の場所教えたんだろ?それなら意外と覚えてんじゃねーの、使えねぇ女って!ヒャハハ!」

「いやあああああっ」


入学したばかりだったんだよ。各教室の場所なんて正確に覚えているはずないじゃん。……まぁ、適当に答えた私も私なんだけど。

高校二年生になり、念願の想い人と同じクラスになれたのだ。このチャンスを活かさない手はない。と、新学期当初は意気込んでいたものの、数日後彼には友達がいないことが判明。この空気の読めないバカは友達であるようだが、友達……なのか?と疑ってしまうくらい毎日喧嘩している。私もしてるけど。

というよりも、寧ろモブ達が(酷い)話しかけられないようなオーラを彼が放っていることが友達がいない原因なのだと私は思う。

席で一人、スコアブックとやらを見ている彼の表情は真剣そのもので。その上世間で広まっている彼の噂。というよりも、事実なのだが、野球の知識があまりない私でも理解できるくらいのハイスペック。そして、あのフェイスを兼ね備えているのだ。


(話、かけられるわけない…)


「だめだよ。こんな顔で御幸くんに話しかけても『うわっ、なんだこのヒキガエル』って言われるのがオチだよ」

「なーにビビってんだよ!大丈夫。お前はヒキガエルには見えねぇ。間違えるとしてもガマガエルだ!」

「どっちもどっちじゃん!」

「臆するな、ゆけ!」

「ちょ、ちょっと!押すな!!」

「ヒャハハハハ!それはフリだと受けとったぜ!」

「ちがうっつーの!バカもちいい!」


……というわけで。


「なに?」


ヒィィィイ!お、おおお怒ってるの御幸くん。
半ば無理矢理御幸くんの席まで連れて来られた私。

違う……こんなはずじゃ…


「ヒャハハ!おい御幸!こいつ※※※ってんだけどよ、お前と友達になりてーんだってさ!物好きもいるもんだなー、良かったな!ヒャハ!」

「ち、違うの!これは、何かの間違いで…」

「なーにが間違いなんだよ。それじゃ、俺先行ってっから!しっかりやれよな、※※※。」


そう言って倉持はすたすたと…
って、ああ!次移動教習じゃん!
友達は皆私を置いて行ったようで、教室には私と御幸くんしか残っていなかった。

………気まずい。
御幸くんと二人きり。話したいとは思っていたけど、今の私にこれはまだ早すぎる。御幸くんからしたらなんのこっちゃって話ですよ。


「………」

「………」

「御幸きゅ…」

「へ?」

「っあ、いや」


噛んだぁぁぁあっ!
もう、あかん。自分なんなの。
名前すらうまく言えないとか、ダサすぎ。


「……※※※」

「っ!」


名前呼ばれた…嬉しい。

(声も、好き。…とか言ってる場合か!)


「そろそろ行くか」

「え?」

「次、移動教室だろ?」

「…うん!」


立ち上がり、歩き出した彼の後ろ姿を追う。
倉持、ごめん。やっぱり私は意気地なしでした。折角のチャンスだったのに、全然話せなかったよ。

先に教室を出て行く御幸君の背中を内心うなだれながら眺める。
はぁ、その広い背中に抱きつきたいよ。


「なぁ、理科室ってどっちだっけ?」


突然振り返った御幸君に心臓が飛び出しそうになる。けど、ここは平静を装いつつ返事をする。


「理解室……あ、あっちあっち!」

「あっちか」


……。
………あれ、なにこのデジャブ感。


「今度は合ってんだろうなー」


先を行く彼はくるりと振り返った。


「話すの、あの時以来だよな」


一年前には見ることのできなかった笑顔で、彼はそう言った。


キーンコーンカーン…
(御幸、※※※、遅刻!)
(ヒャハ!お前ら何やってたんだよ!)
(なななな何もしてないよばか!)
(……※※※、動揺しすぎな)





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