ダイヤのA短編
□黄昏る
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春、俺はこの青道高校に入学した。
俺はこの学校でエースになるんだ。地元のあいつらの代表として。
その目標を胸に掲げ、毎日怠ることなく練習に没頭した。妥協なんて、してちゃだめだ。寄り道も、している暇はない。
「らっ、沢村!ボーッと突っ立ってんなよ!」
「痛っ!」
尻に衝撃が走り、体制が前に崩れる。地面についた手が痛い。
大方犯人は分かりきっているが、怪訝な顔をして振り返ってみるとやはり予想通り。
倉持先輩がニヤニヤ笑いながらこっちを見下ろしていた。
「倉持先輩、お疲れさまっス!」
姿勢を正し、深く素早く元気に挨拶する。
「ヒャハハ!お前まだまだ元気そうだなぁ!今夜も付き合ってもらうぜ」
そういいながら、コントローラーを弄る手つきをする先輩。
またゲーム大会か…
「付き合いますけど、俺のことも朝起こして下さいね」
眉間に皺を寄せ横目で睨みながら言うも、先輩はケラケラと笑い出した。
「ヒャハハハ、何様だこの野郎!起きねぇお前がわりーんだろ!」
「っいでででで!ギブ、ギブギブッ!」
雄叫びと共に今度は関節技をくらわされる。
練習後の汗だくのユニフォームを着ているから正直今はやめてほしいがそんなことは言えない。暑い。
そう思いながらも毎度のこのやりとりに自然と頬が緩む。
未だにケラケラ笑う倉持先輩に反撃をしようとした矢先、先輩の声と動きが止まる。
「亮さんっ!」
突然喜々とした叫び声をあげた倉持先輩は、俺を投げ捨てるようにして少し先に見える、春っちのお兄さんのもとへと走って行った。
な、なんなんだいったい。
転ばされた状態でいきなり放置された俺。足掻いていた手は行き場を失いうなだれた。
本当に自由な先輩だな…
尻についた砂をはたきながら地面から起き上がり、先輩が走って行った先を見てみると、倉持先輩とお兄さんが肩を並べ宿舎の方へと歩いていた。
夕陽に染められた二人の後ろ姿。なんか、いいな。
………青春っぽい。
ってなに考えてんだ俺!
我ながら恥ずかしすぎる。そんな思いを掻き消すように頭を強く振る。
俺じゃない。これは全部あの先輩方が悪い!
さっさと飯食って風呂にいこう。
そう決めこみ強く地面を踏み鳴らし歩き出した。その矢先、寮とは反対側に、おそらく帰宅するのであろう女子生徒が歩いているのが見えた。
目を凝らさずともぱっと見でわかる。すごく、綺麗な人だ。
セミロングのやや茶色がかった髪の毛が、歩くたびにやわらかく揺れる。
華奢な体だが、凛と背筋を伸ばし歩く姿からはそんなもの微塵も感じずある種の自信を、感じる。
きれいだ。
……なーんてな。
何考えてんだ俺は。
少し、いいな、なんて思ってしまった自分に喝を入れるように両手で両頬を挟むように叩く。
気を引き締め直し、邪念を振り払うように俺はそちらに背を向け寮へと足を進めた。
やっぱ風呂の前に、あいつにボール受けてもらおう。