ダイヤのA短編

□やりずらい
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「御幸御幸」

「ん?」

「消しゴム貸して」

「はい」

「御幸御幸」

「はい?」

「下敷き貸して」

「…まぁ、使ってねぇから……はい」

「御幸御幸」

「……」

「教科書貸して」

「ごめん無理だわ」

「ケッチ!」


人に次々と頼み事をしておいてなんだこいつは。別に俺はケチじゃねぇ、よな。
じとっとした目で田原の方を見ると、気だるそうに肘をつきながらノートをとっていた。うわ、欠伸した。
その余裕な田原の態度にただただ感心してしまう。なんて図太い奴なんだ。


「なに?こっち見ないで」

「……」


可愛さ余って憎さ百倍。
いやかわいくねぇけど。


「御幸御幸」

「……」

「御幸御幸」

「……なに」

「今のブームは?」

「勉強」

「はっ、相変わらずふざけた頭してるね」

「……」


きっと今の俺を漫画に書いたら、こめかみに血管を浮かばせていることだろう。


「あ、やべ シャー芯切れた。1本くんない?」

「はぁ……私に迷惑をかけるんじゃないよ」

「どの口が言ってんだ」


踏ん反り返るこいつは一体どこの何様なんだ。はい、なんてくれたシャー芯は本当に1本。ソッと差し出してきたその顔には、薄気味悪い半笑いの笑みを浮かべていて、気づいたら俺はこいつの頬を片手で挟んでいた。
タコみたいになってらぁ。


「いでででで…っはな、して!」

「……」

「なにっ!ちょ、御幸さん離して!」

「……ごめんなさいは」

「は、なんで?何に対して!?」

「……」

「いだだだだ!ごめん!ほんっとすみませんでしたああ」


このままタコにしてやろうかと思ったが、俺の中の大人に免じて手を離してやった。


「くそっ!私の顔が小さかったばっかりに!」

「バカ野郎、俺の手が大きいんだよ」

「んだとー!」


キーキー叫んでるけど、俺は悪くない。
大体、毎日どんだけ俺に迷惑かけてると思ってんだこいつは。
棚への上げ方が尋常じゃない気がするのは俺だけか。


「お前なー、たまには俺に優しくしてくんない?」

「え、優しくないと?」

「あぁ」

「シャー芯あげたじゃん」

「念のために2、3本くれるとかさ」


ちょっと待て。なんか俺、図々しい?
そんな気がしてきた。
いやまぁ、シャー芯のことをそこまで言いたいわけじゃなくて…
なんか俺に厳しくなぁい?ってはなし。


「……シャー芯なくなったら、またあげるって」

「なんで急にそんな小声?」

「……だから!また話しかけてくればいいじゃんかって!」

「はぁ?」


急に大きな声を出した***は、口を一文字にしてこちらを睨んでいる。……て、なに顔赤くしてんだよ。


「……はぁ!?」

「なによ!」

「はぁあ!?!」

「なによぉおお!!」


お互い睨み合って叫び合うこの空間はなんだ。顔を染めるこいつを見て、自分の顔も熱を持ってくるのがわかる。
だぁ、もう!なんだよ!居心地悪い!!




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