*(新)ふしぎラビリンス*

□ふしぎラビリンス7〜約束〜
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「山……に、置いとけないって……」


声が震え出す。
言葉を言いたいのに、その言葉が声にならない。


「なん……なんでっ」
「ちゃう。いらん気を回すなや。お前は連れてく、言うとるんや」
「……………え?」
「ここにおったら、どっちにもええことないからな」
「それが賢明なのだ、翼宿」
「せやろ」


どういう……これはどういう事なんだろう。


「……意味、わかんない」
「わからんか。ちぃと、ここに居すぎてしもたな」
「こんなむさ苦しい場所で住まわせるからいけないのだ」
「悪う思とる。せやかて、こいつ、違和感あらへんのやもん」
「それでも女のコなのだ」


つまりは、追い出されるわけでもなくて、私は翼宿について行っていいって事?


それなら、旺牙は?
旺牙はどうなる?


当の本人に目をやれば、今の状況をうまく呑み込めずにいる。


「頭……俺の処分の言い渡しは……」
「あ?あー……忘れとった」


は、はぁっ?
忘れてたぁ!?


翼宿があっけらかんと口に出せば、隣で井宿が吹き出して笑った。


「翼宿、それくらいにするのだ」
「そか?こいつらおもろいねん」
「頭?」
「あんな、お前を追い出すつもり、ないねん」
「……そないなことでは示しがつきまへんで」
「困るんや。お前追い出したら、オレは攻児まで追い出さなアカンくなるんやで?」
「副頭?副頭をなんで……」
「あいつ、下心ありまくりやったからな」


…………うん?


「水飲ませるんとか、初めて見たで」


え?


翼宿が困ったように頭を掻いて、井宿は笑みを増す。


「オレは一度に2人も追い出さなアカンの嫌やわ」
「頭……!」
「オレはお前のことも手放せん。せやから、このことは南央に任せるわ」


いきなり白羽の矢が立つ。
一気に視線がこちらに来た。


「なん、で……私?」
「攻児のときも許しとるやん」
「別に許すも許さないも……水飲ませてくれただけだし。助かったし」


そう言えば、どうやら求めていた答えだったらしく、笑う翼宿。
でもどこか、複雑そうな顔にも見えた。


「ほな、旺牙はどうや?」
「旺牙は……」


自分の代わりに頭を頼むと言った。
あれは、ついていけない旺牙の代わりに翼宿を護ってほしいという気持ちからだと思う。


だったら……


「旺牙は私に情けをかけてくれたんだと思う」


「っ……なんだ、それ……あんたは的はずれなことばっかりだ」


旺牙が俯く。
いつもより生気を感じられない。
そんな旺牙なんて……いやだ。


私は旺牙の前にしゃがみこむと、その顔を、ベチンと両手で挟んだ。


「、…………」


呆気に取られている旺牙を真正面から見据えた。


「旺牙、言ったよな。使いこなしてみろって」
「それが、なんだ……放せ」


私の手を無造作に引き離す。


「使いこなしてやる。ここに帰ってきて、一番に見せてやる。なのに、帰ってきてもあんたがいなかったら見せられない!」
「……………」
「旺牙はここに残るべきだ!翼宿は、私がちゃんと連れて帰るから、あんたはここでここを護ってろよ!!」


そこに翼宿が旺牙の剣を持って近づいてきた。


「よう言うたで、南央」
「翼宿……旺牙、追い出さないよね?」
「出さへんて」


よかった。
旺牙は翼宿に深く頭を下げた。
翼宿は旺牙に剣を差し出す。


旺牙は、今一度、誓いを立てるかのように、翼宿から剣を受け取った。





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