*ふしぎ夢短編*

□君との出会い
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「だから井宿も一緒に来てって言ったのに!」


……まだ、オロオロと歩き回っている。
それを手ぬぐいを持って、仕方なく追いかけた。


「話はあとなのだ。とりあえず拭い……」
「来ちゃだめ……!!」


バッと背中を向けられて、うずくまる。
……今度は何なのだ。


腰まである髪が、しゃがんだことで床につきそうだ。
本当に、世話の焼ける娘なのだ。


「そのままでいるのだ」
「だから来ちゃ……」
「ただ拭くだけなのだ!」
「うぷっ!」


頭に手ぬぐいをかけてわしゃわしゃと拭きあげた。
背中に張り付いている髪を持ち上げる。


「何故、慌てて出てきてのだ?変な輩でもいたのだ?」
「その方がうんとマシね」
「…………」


……冗談で言ったのに、思ってもない返事が返ってきた。


「お湯から上がって……服を着ようとしたら、ね……」


ようやく話し始めた。
ここまで慌てふためいて走って戻ってきたのだ。
怪しい者よりももっと恐ろしいものが襲ってきたのだろうか。
そうだとしたら……やはり付いていくべきだったか、と自分を責めた。


だけど……。


「私の目の前の壁の隅っこに……」


壁の隅?


「あ、あいつが……」


あいつ?


「は、8本の足のやつが……堂々といたのよー!!!」


……………。


「それは……まさかとは思うのだが……」
「ううっ……いるとは思ったのよ。古いもん、ここ……この世界……」


ああ、やはりこれは……


「蜘……」
「言わないでぇえええ!!!」


バッと振り返ってオイラの口を塞ぎにかかるが、反射的に動いてしまった。


「だ……」


彼女の両腕を握れば、その体は正面を向いていた。


「……っ………ぎゃああああ!!」


………色気も何も無い声が耳を突き破っていく。


「う、うるさいのだ……」
「ブ……ブラ取ってきてぇ……」
「だ?なんなのだ、それは」


そう、聞いた時、この部屋の向こうから声がかけられた。
ここの宿のものだろう。


オイラが出ると、「奥方様のお忘れ物かと」と手渡される。


……奥方とかでは、ないのだが……。


「今の人、なんだったの?」
「あ、ああ……これを君に、と持ってきてくれたのだ」
「私の服ー!ありがとう!!」


その中にお目当てのものもあったのだろう。
とても嬉しそうに服を抱きしめていた。







「井宿、もういいよ」


部屋の外に立っていると、中から声がかかった。
着替えが、済んだようだ。


「ごめんね、大騒ぎして」
「たった1匹の蜘……」
「だから言わないでったら!!」
「……言うのもダメなのだ?」
「ダメ。絶対……ダメ!想像するから」


もうすでに想像しているのか、その場で体をさすって落ち着こうとしている。


「他のは……そうでもないんだけど……あれはダメ」
「特別、害はないのだ」
「形状がもう無理」
「…………」
「井宿は、平気?」
「オイラ?まぁ、特になんとも思わないのだ」
「おおー!」


一気に、表情が明るくなるのがわかった。
今にして思えば、これが運のつき。






これが、オイラと君のはじまり。





fin.


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