社内恋愛
□高木と宏岡
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「高木、お前まだ帰らねぇのか?」
トレンチコートを羽織り、マフラーを巻きながら部長─···宏岡秀光(ヒロオカ ヒデミ)が話しかけてきた。
「あ、はい。まだ明日までに仕上げておきたい書類があって···」
「そうか。俺は悪いけど···」
「はい、お構いなく。お疲れ様でした。」
「ああ。またな。あんまり気張りすぎるなよ。」
「!」
通り過ぎざまに俺─···高木柊羽(タカギ シュウ)の頭をクシャっと悪戯に撫でて帰って行った。
「···すぐ子供扱いするんだから···」
18歳からここで働き出してもうすぐ7年になる。
我ながら頑張ってる方だと···思う。
本当は何でも三日坊主な俺。
···そう、飽きやすいんだ。
飽きやすいはずなんだけど。
宏岡さん。
この人の存在でそんな性格がなかったことになっていた。
それどころか、さっきみたいに頑張り過ぎる部下として扱われる始末。
入社当時、宏岡さんが俺の教育係だった。
その時はまだ課長だったが、信頼と実績からかいっきに昇進していって今や35歳にして部長とゆう地位を手に入れた。
でも、偉くなった今も現場に出入りしていて、今も同じ空気を吸うことができている。
そんな宏岡さんに着いて行きたくて、隣りに居ても相応しい男になりたくて、宏岡さんの笑顔が見たくて、褒めてもらいたくて、全てはこのために、宏岡さんの為に頑張ってきたのだ。
最初は、なかなか仕事を覚えない俺に、飽きれることなく世話を焼いてくれた尊敬する相手に恩返しするつもりで頑張っていたつもりなんだけど······
黙っていればクールな感じなのだが笑うと可愛いところとか、厳しさの中にも優しさがあり、自分には厳しいくせに他人には優しくて何げにフォローしてくれるところとか、それに10も年上なのに見ていてなんだかほっとけないところがあったりもするからいつの間にか目で追っていて、居ないと気になったり·····本当にいつの間にか、自然に、恋をしていた。
日に日にその気持ちは増えていき─···
ガチャ
「高木ぃ〜」
「え、部長?わ、忘れ物ですか?」
「いや、一緒に飯食おうかなって。ほれっ」
ニシシッと笑う部長の右手には、職場の道挟んだ所にある美味しいと人気の弁当屋の袋。
「っ!あ、ありがとうございます。」
ほら、またさっきよりも貴方を好きになる俺が居る─···。