社内恋愛

□高木と進藤
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「先輩っ!高木せんぱい!!ランチ行きましょうよっ」
「進藤。」

こいつ、進藤大地(シンドウ ダイチ)は入社3ヶ月目で、4つ下の後輩。
あまり新入社員を取らない小さな会社なので、唯一の後輩だ。
大卒で見た目チャラそうな割には頭も仕事覚えも良く、人懐っこいし慕ってくれてるのでまぁ、普通に可愛がっているつもりだ。

「今日は丼な気分ッス!!」
「何で先輩の俺が後輩のお前に合わせなきゃいけねんだよ。普通逆だろ、ぎゃ・く。」
「駄目ッスか···?」
「グッ、べ、別にいいけど。その変わり明日は俺に合わせろよ」
「うっす♪」

なぜか、甘えられたり頼られたりしたら弱い高木であった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

モグモグ

「ん!美味いなぁここの天丼!」
「でしょ?丼で良かったでしょ?」
「おう。でも明日は」
「ハイハイ先輩に合わせますよ」
「なんで一々上からなんだよ···」

こいつは俺をなんだと···
恐らく、周りから見たら俺の方が後輩だと思われてるんじゃないかと心配になるくらいこいつは態度がデカイ。
でも何故か嫌な気がしないからキツくは言わないのだが···それが悪いのだろうか。
後輩を育てるのも難しい···
と考えていると、進藤がところで、とふいに切り出した。

「むしゃむしゃ···どした?」
「先輩と部長って仲いいんですね?」
「グッ、ゴホッ····は、え、何それ?」

何を言い出すんだこいつはマジで!!

「そんなに焦ることですか?」
「いきなりお前が変な事聞くからだろ、ケホッ」
「いや、この前帰る間際、彼女から電話があって暫く廊下の隅で話してたんすよ。そしたら帰ったはずの部長が弁当袋ぶら下げて戻ってきたから。···贔屓?とか思って。俺そんなんされたことないし。」

み、見られてたのか!?
いや、でもあれは宏岡さんの
後輩思いから来る純粋なる好意だ。
俺の態度のせいで先輩まで怪しまれてしまったらもう顔が向けられなくなる···のを避けるためには宏岡さんはもちろん、俺自身もそうゆう気持ちが微塵もない事を分かってもらわなくては。

「···その前にお前まだ残業したことねーじゃん。」
「そうですけど。言いたいことはそうじゃなくて!」
「そもそも贔屓とか、そんなことするような人じゃないの知ってるだろ?」
「知ってるからこそ、驚いたんですよ。特別な関係なのかって。」
「んなわけないだろ、たまたまだ。部長と部下。それ以上でも、それ以下でもねーよ。」
「ふ〜ん···」
「明らかに納得行ってねーだろそれ」
「あっちは···部長は違うかもですよ?」
「···何が?」
「だから、部長は先輩のこと気になってるってゆーか好きなんじゃないかって」
「ぐぇっほゲホゲホッ!なっ」
「だって二人の雰囲気見てそう思ったんですもん。」

こいつはなんつー事を言うんだ!ハッ、いかんいかん。
冷静に、冷静になれ俺!!

「···もんってお前。あのな、例え仲良くても男2人見てなんでそんな風に思うんだ?おかしいだろ。」
「おかしい、ですか?」
「おかしいっつーか、 そんなやついくらでもいんじゃねーか。友達とかでも普通にやることだろ。」
「···男が男を気になるのは、おかしなことですか?」
「いや···てかお前····」
「!な、なーんちゃって!なにマジな空気出しちゃって!!先輩て本当にからかいがいのある人ですね〜」
「お前は本当に意地が悪いな」
「冗談の通じない男は面白みがなくてモテないッスよ〜?」

そんな憎まれ口を叩きながら進藤は笑ったけれど、実際はこいつの方が真剣な顔付きで、それでいて焦ってる感じがして···何だか自分自身を見ている気がして俺は笑えなかった。

その時は冗談で終わらせたけど、俺はそれから暫くその時のアイツの顔と言葉が離れなくて、何故か自分の想いと重ね合わせたりして···1度このことを考え出したら止まらない。

だから暫くの間、進藤とどんな会話をしたのかさえも覚えていないくらい周りが見えていなくて。

だから

「まぁ、モテない方がライバル少なくて俺には都合がいいけど···ね、先輩。」

進藤がそう小さく呟い事に気付きもしなかったんだ─····。



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