◆文
□雨
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ザァァァア
「雨…止まないねー」
憂鬱そうに窓の外を眺めながらゆあが呟く。
「そうだな。」
手元の資料に目を落としていた中也もなんとなく窓に目をやった。
「これが止んだらまた寒くなるんだろーなぁ...」
うううとますます気分が落ち込むゆあに中也は溜息をつき、頭を軽く撫でてやる。
「そんなに落ち込むな。今度サンドイッチ買いに行くの付き合ってやっから。」
「えっ!?ほんと!?やったー!じゃあ元気出す!!」
「……お前のそういう現金なとこ嫌いじゃねーよ。」
扱いやすくてな、と付け足して揶揄うとゆあはたちまちむくれてしまった。
彼、中原中也と卯月ゆあは恋人同士である。
彼女の最近のマイブームはサンドイッチの食べ比べらしい。
専門店ではなくスーパーやコンビニの方が好きと言ってる時点でどうなんだという感じだが、彼女曰く庶民的な味の方がいいんだとか。なんとも残念な舌である。
「そんなこと言う人にはこうしてやる!!」
「ぶっ!!ちょ、やめろって!!ぶはははははははは!!!お、おいって!!やめっぶはっ!!!」
ゆあはせめてもの反撃で中也の脇腹を思いっきり擽ってやる。
「ちょっやめろっつってんだろ!」
「わっ!?」
中也は私の手を掴んでやめさせ、そのまま天井に逃げてしまった。
「中也ごめんて、やり過ぎたの謝るから降りてきてよー」
「……」
中也はこちらに背を向けたまま天井に胡座をかいて座り込んでしまった。
「中也ー私が悪かったってばー」
「……」
「中也くーん」
「……」
「中也さーん」
「……」
「中原さーん」
「…中原って呼ぶな。」
ふわりと中也が降りてきてむすっとしたまま抱きしめてきた。余程苗字で呼ばれるのが嫌だったらしい。
「許してやるから二度と苗字で呼ぶな。」
「ん、わかったごめんね。」
そっと中也の髪を撫でてやると、もっと撫でろと言わんばかりに頭をぐりぐり押し付けてきた。
この可愛すぎる恋人が私は愛おしくてたまらない。
「もう、中也可愛すぎかよ!!」
「はぁ?何言ってんだ」
雨で憂鬱なこんな日でも中也と一緒に過ごすだけで幸せになれるよ。