◆文

□傷
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「……はっ……はっ……はっ……」

深夜、太宰さんからの電話で飛び起きた私は真っ先に拠点の医務室に向かって全力疾走していた。

『遅くにごめんねゆあちゃん、実はさっき中也がーーー』

太宰さんがなんて言ったか最後まで覚えてない。中也が負傷して運ばれたという事実だけで目の前が真っ暗になった。

中也が死んじゃったらどうしよう……!いやだいやだいやだ!!

脳内には最悪な考えしか浮かばなくて、目からじわりと熱いものが込み上げてくる。歪む視界に転びそうになりながら一心不乱に走る。

バァンッ!!!!

「中也ぁ!!!!!!」

感情任せに勢いよくドアを開け、叫んだ。
体中包帯を巻かれ何かの医療機器に繋がれた彼を見て力が抜け、そのままふらふらとベッドへ歩み寄る。

「……ちゅう、や」
「……っせぇな。情けねぇ顔、してんじゃねーよ……」
似合わねー、とか細い声で力なく笑う彼に似合わないのはどっちさと返したかったが返せなかった。
普段の中也からは全く想像できない声と笑顔に、なんとなくこのまま消えてしまうんじゃないかと思ってしまう。

「...ごめんな。今、お前のこと...抱きしめて、やれねぇ...」
ただただ静かに涙を流して見つめてくるゆあに中也は困ったように笑う。

なんで中也に気を使わせてるの。痛いのは中也なのに。いつも支えてもらうばかりで情けない自分に腹が立つ。
「大丈夫。私がその分中也のことぎゅってするね。」

なるべく傷を刺激しないように、触れるか触れないかの軽い抱擁。

「...ちゃんと、抱きしめろよな。そんなん、じゃ...足りねぇよ...。」
「でも、傷が...」
「いいから」
早くしろ、と促す中也に我慢できず、しかし傷に触らないよう慎重に抱きしめる。
「...痛くない?」
「 おう」
包帯越しに伝わる中也の体温と鼓動に安堵する。

「...なぁ、ゆあ」
「なに?あ、もしかて喉乾いた?それともお腹すいた?」
「...ただいま」
「っ!!」
そういえば、まだおかえりって言ってなかったね。

「おかえり中也。ちゃんと帰ってきてくれてありがとう。」
「ん。」
満足そうに笑って中也が意識を手放すと、ゆあはそっと体を離した。近くの椅子に腰掛け、手を握って穏やかに眠る彼の頬に軽く口付ける。

どうか彼が早く元気になりますように。

窓の外に広がる星空に静かに願い、ゆあも意識を手放した。

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