【特捜】特別捜査密着24時
□おまつり初詣(前後編)
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世間はお正月に浮き足立っていても、犯罪はお正月も何も関係なく起こる。
むしろ『お正月』という行事で起こる犯罪も多いのだ。
私たち特捜二課は、昨年起こった通り魔事件を抱えたまま、初詣で大賑わいする都内N神社のパトロールを担当することになり……おめでたいのか、おめでたくないのか、お正月のほとんどをN神社境内の人ごみの中で過ごしていた。
「う……押される、流される……」
人ごみに流されながら、私は予定通り第一ポイントである天王寺さんを探した。
▶▶▶
「毎度〜!」
「天王寺さん……っ!」
「加賀城、人ごみの中かわいそやなあ!人ごみとは無関係なうちと変わってやりたいなあ!」
「思ってもいないこと言わないで下さいっ!」
野村さんの発案で、身動きしやすいよう、境内各所で出店を出すことになっていた。
私は人ごみに押される担当の見回り係………。
「お前、人投げ飛ばして、ここまで来たんちゃうか?」
「そんなこと…したいけど、するわけないでしょう?!」
「美味しい広島風お好み焼きはいかがですか〜?」
「瑛希くん!」
「あ、涼子ちゃんだ!」
「おい、瑛希!お好み焼き言うたら大阪やっ!めっちゃ旨い本場大阪のお好み焼きはいかがですか〜!!!」
「豊さん、お好み焼き屋じゃなくて、たこ焼き屋じゃないですか。」
「言ってみただけや!……って何で、瑛希の広島風お好み焼きに客がきてんのや!!!」
「天王寺さんが宣伝したんじゃないですか…お好み焼き……。」
「豊さん、ありがとうございまーす!涼子ちゃんも食べる?」
「広島風なんて邪道や、邪道!加賀城はこれから本場大阪のたこ焼き食うんや!」
「涼子ちゃん、特盛りにするよ。」
「広島風お好み焼き特盛りで……」
「何やと?なら、たこ焼き特特盛りや!」
『お前ら、真面目にやれ!!!』
無線から桐沢さんの声が聞こえ、
「「「すみません。」」」
3人揃って、すごすごと持ち場へと戻った………。
▶▶▶
「ふぅー、次は京橋さんか……何の出店やってるんだろ………。」
またもや人ごみと格闘しながら、第二ポイントである京橋さんを目指す。
「この人出じゃ、パトロールどころじゃないよ……あ、京橋さん!」
「加賀城さん、お疲れさまです。この人ごみの中、両手にお好み焼きとたこ焼きとは……相変わらず食い意地が張っていますね。」
「放っておいてくださいっ!!!…ん?恋に効く媚薬?!」
「はい。初詣はカップルも多いですからね。運動にはスポーツドリンクです。」
「スポーツドリンクが媚薬……これって詐欺じゃないですかっ?!」
「そこにスポーツドリンクときちんと書いてあります。」
「媚薬なんていうスポーツドリンク、買う人いるんですか………」
「カップルに売れていますよ。どのようなプレイを楽しまれるのでしょうね?きっと過激な………」
「お正月くらい変態発言は慎んでくださいっ!!!」
「正直に吐いてください。あなたは万引きをしたことを悔いている……違いますか。」
「は、花井さん?!」
「万引きを悔いて、心の枷になっている……ならば警察へ出頭し罪を償うことです。」
「占いをやっているのですが、ずっとあの調子です。」
「占いじゃなくて、ほぼ取り調べじゃないですか………」
「罪を償ってこそ心の枷が取れる。楽になりたければ、いつどこで万引きをしたのか吐くんだ!!!」
「ちょ、花井さんっ!」
「加賀城、ちょうど良いところに…。万引き犯だ、手錠をかけて連行を頼む。」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ……っ!」
「チョップなら天王寺にしてもらえ。」
「謹んでお断りしますっ!……じゃなくて、何でここで取り調べしてるんですか!!!」
「お2人とも、落ち着いてください。万引きをしたのは小学生の頃だと言っています。既に時効です。」
▶▶▶
「はぁ〜、何かどっと疲れた…。次は桐沢さんのところだから、まともなはず………」
「おじちゃん、わたあめ1つ〜!」
「おじちゃん、僕も、僕も〜!!!」
「お、おう……。」
「おじちゃん……って、え?桐沢さん?!」
「頑張ってるね〜、洋クン。」
「え、野村さん?!」
「やっほ〜、涼子ちゃん。すごい人出だね〜。」
「き、桐沢さんの顔、ひきつってますけど、近寄っていいんでしょうか………」
「いつにも増してからかい甲斐がありそうな顔〜」
野村さんは私の手を引いて、ズンズンと桐沢さんに歩み寄っていく。
「やっほ〜、おじちゃん洋クン。」
「の、野村……っ!おじちゃん言うなっ!」
「き、桐沢さんは、まだお兄さんですよね〜!あはは〜!!!」
「顔がひきつってるぞ、加賀城………」
「まあまあ、洋クン。可愛い涼子ちゃんに当たらないの。」
「当たってねえ!!!野村、お前、何しに来た?」
「ん〜、洋クンに用事があって?」
「断る!そもそもパトロールは二課の仕事じゃねーだろ!!!」
「洋クンにいい情報持ってきたんだけどな〜」
「じゃ、じゃあ私、そこの浅野さんの射的屋さん行って来ますねー!」
桐沢さんたちの邪魔にならないようにと、私はすぐ側にある浅野さんがやっている射的屋さんへと移動した。
▶▶▶
お客さんのいない射的屋さん。
浅野さんは、特に呼び込みをしようともせず椅子に座っていた。
「浅野さん、お疲れさまです。」
「お疲れ……。」
「射的かぁ。子供の頃は全然当たらなかったけど、今なら当たるかな?」
「やれば…?」
そう言って浅野さんは、私に空気銃を手渡してくれる。
「ありがとうございます!ええっと、脇を締めて………」
玉をこめ、前に浅野さんから教わったことを思い出しながら構えてーーー。
パーンッ!!!
「う、嘘……外れた………。」
「下手……。」
「ま、まだ玉は残ってますからっ!!!」
パーンッ!!!
パーンッ!!!
パーンッ!!!
「う……全滅………。」
「どんまい。」
浅野さんが、私から空気銃を取り上げ、玉をこめる。
そしてーーー。
パーンッ!!!
パーンッ!!!
パーンッ!!!
見事に全て的中した………。
▶▶▶
「お兄ちゃん、すごーい!!!」
「お兄さん、かっこいいなー!」
気がつくと、浅野さんの射的屋さんの周りには人だかりができていた………。
観客に、もう一回とせがまれて、浅野さんが無言で銃を取り上げた時ーーー。
『聞こえるか?境内の中に、例の通り魔犯がいる。』
桐沢さんから、無線が入った。
▶▶▶
桐沢さんからの緊迫した無線に耳を傾ける。
『犯人はやはり麻薬をやっていた。今日、この境内で取引が行われる。』
目撃者からの「目つきがうつろ」という情報から、麻薬の線も洗っていたが、一向に犯人の目星がつかなかった通り魔事件。
『浅野はそのまま一般客を引き寄せて、安全確保をしてくれ。店はやめだ。急いで出入り口の見張りと職質を頼む。俺は加賀城と麻薬取引現行犯で確保に向かう。』
一斉にみんなの返事が聞こえ、私は急いで桐沢さんの元に戻る。
「桐沢さん!」
「野村が麻薬密売組織を追っていて、通り魔犯に辿りついたらしい。人出が多い、銃は使うな。行くぞ。」
「はい!」
桐沢さんと2人、人をかき分けて境内の裏手へと回る。
「あ、桐沢さんっ!あそこのベンチ……っ!」
「中肉中背の20代くらいの目つきがうつろな男…目撃情報と一致しているな。」
死角になっている位置から、その男を観察する。
『こちら桐沢。裏手で通り魔犯らしき人物を発見。売人が現れ次第、現行犯逮捕する。一般客を巻き込まないように出入り口の強化を頼む。服装は………』
桐沢さんが、無線で出来る限りの情報や指示を皆に出し、私の緊張も高まってくる。
「加賀城、売人が来たら一般客の通行人のふりをして近付くぞ。」
「は、はい!」
大勢の一般客で賑わうN神社。
一般客を巻き込むことは避けなければならない。
そして一般客を避難させれば、逮捕はできない。
緊張で手に汗を握りながら、死角の位置から麻薬密売人を待つ。
そのときーーー。
ベンチにもう1人の男が座った。
「行くぞ。」
桐沢さんが、おもむろに私の手を掴んで歩き出す。
「え?え?」
「もっと肩の力を抜け。恋人に見えないじゃねーか。」
「恋人………。」
「俺が指先でカウントしたら、1.2.3で向こう側に回り込め。」
そう言うが早いが、桐沢さんの指が動く。
1...2...3!!!
桐沢さんが通り魔犯に声をかけた瞬間に、私はベンチを挟み込むように向こう側へ回り込む。
彼らが手にしていたものは、やはり麻薬だ。
逃げようとする売人の足を払い、抑えつけ手錠をかけた時には、桐沢さんも既に通り魔犯に手錠をかけていた。
▶▶▶
特命二課のいつもの見慣れた風景………。
センターテーブルの上には、広島風お好み焼きと、本場大阪のたこ焼き、スポーツドリンクが所狭しと並んでいる。
「涼子ちゃん、犯人のせいで余っちゃったから、たくさん食べてね!」
「ありがとう、瑛希くん!今日の売上まとめたらいただくね!」
と、そのとき。
バーンッ!!!と二課のドアが開きーーー。
「ボス、通り魔犯が犯行を自供しました。」
「彼はどうやら同性愛者だったようです。好きな男性を女性にとられた恨みとは…変態の風上にも置けません。」
「よくやった、花井、京橋。」
「これで事件解決ですね、ねえ豊さん。」
「全然良うないわっ!まだ初詣にも行ってないねんで!!!」
「そういえば、私も初詣行ってない………。」
「加賀城の願い事なんて、どうせ彼氏できますようにーとかやろが!!!」
「ふんっ!そういう天王寺さんだって、彼女できますようにーじゃないんですか!!!」
「違うわ、アホ!俺の願い事はもっとでかいんや!」
「豊さんの大きな願い事って何なんですか?」
「もちろん、タイガース優勝や!!!」
「………。」
「加賀城と天王寺の話は聞かない方がいいぞ、浅野。」
「何やと!花井っ!!!」
いつもの賑やかな二課。
なんだかんだ言っても、私はこの場所を気に入っている。
「それなら、事件解決祝いに、これからみんなで初詣にでも行くか。」
「「「さすがはボス!」」」
二課揃っての深夜の初詣。
賑やかな一行になることは間違いなかったーーー。
▶ 完 ◀