行方不明の姫

□一難去ってまた一難
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「天香サンただいま〜! 何食べてるんデスか〜?」

 水瀬天香が鳳凰に入ってから数週間が経った。
 あの時から大きく変わったことは特にない。
 海斗や青翔とは徐々に信頼が深まっているが、悠真は相変わらずだった。
 水瀬天香には暴力など振るわせないよう海斗に常時ついてもらっている。

「見れば分かるだろう。うどんだ」
 海斗と天香の声で起床した俺は、ソファから起き上がり虚ろな目でヤツらを見た。
 ズズズと小さく麺をすする音が聞こえてくる。

「あれ? 今日は購買のパンじゃないんデスか?」
「さっき買ったぞ、ほら」
「早いデスね〜」
 水瀬天香は購買のパンを、パーカーのポケットから取り出す。
 そんな所入れたらパンが潰れるだろうに。

「つーか、今日に限ってうどんをチョイスした意味が分かんねぇよ」
「お前ら知らないのか? 今日は七夕だぞ」
「だから『今日に限って』っつったじゃねぇか!! 七夕にうどんって何なんだ!!」
 すかさず漫才師のようにツッコミを入れると、水瀬天香はキョトンとした顔で俺を見た。
「七夕は普通うどんだろう」
「お前……それってそうめん≠フ間違いじゃねぇのか?」
 水瀬天香は黙って俺を見ている。
 呆気に取られているようだった。

「仕方ない……そうめんは今日の夜に食べよう」
 その購買のパンは、焼きそばパンだったよな。
 麺類を食べ過ぎだ。

「怜旺サン僕達もお昼ご飯すませまショウよ」
 海斗の胃が訴えているかのように激しく鳴った。
「おう、行くか」
「ちょっと行ってきマスね天香サン」
 海斗が一声かけて扉を開けると、ちょうどそこには由梨と葵の姿があった。
「あ、怜旺! 今からご飯なのね」
「ああ、行ってくる」
「いってらっしゃ〜い」
 ハートが付きそうな語尾の由梨を一瞥し俺は海斗についていった。
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