行方不明の姫
□夏祭り
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何処を見たって人、人。
ザワザワと騒がしい人混みから少し離れた所で、うちわを片手に持って集まる鳳凰メンバー。
もちろん空は不在だが。
あちこちから「綿あめいかがー?」や「安いよー」と聞こえてくる。
「青翔ぉ今何時〜?」
「ん〜まだ七時だから花火まであと一時間だねェ」
花火を心待ちする浴衣姿の由梨は、金魚が数匹入った袋を片手にぶら下げてソワソワしていた。
「今年も屋台そこまで変わらないデスよね〜」
呑気にうちわを扇ぎながら、座って焼きそばを食べる海斗。
その場にいる鳳凰全員が『あれ?』と疑問に思っただろう。
「海斗……いつ復活したんだ?」
代表として俺が訊いてみると、キョトンとした顔で返された。
「え? そんなのとっくデスよ」
勉強会のとき、あんなにズーンとしてたのが嘘のように明るい。
本来の海斗を取り戻したようだが、あまりにも切り替えが早すぎるのではないだろうか。
「あ、それより天香サンはどうしたんデス?」
「水瀬なら葵とどっか行っちまったよ」
海斗の問いに悠真が平然と答えるが、俺は驚きが隠せないでいた。
「天香と葵が!?」
「ああ、大丈夫デスよ怜旺サン。天香サンと葵サンはちゃーんと仲直りしましたカラ」
「は?」
全てを知っているかのような海斗の言葉に、今度は呆れた声が俺の口から出てくる。
あの騒動を起こしてから天香には葵を近づけさせないでいたのだ。
それなのに、仲直り≠オたというのはどういうことだろうか。
「勉強会の帰り、途中まで三人で帰ったんデスね。あの二人、アニメの話ばっかして僕をおいてっちゃうんデスよ!? 結構楽しげに会話してたんで邪魔できなくて」
天香が『もう少しで見たいアニメが始まるからだ』と言って先に帰ってしまったのを思い出した。
葵が帰ったのもそれが見たかったからだろう。
「そういうわけで一件落着デスよ!」
パァと歯を見せて笑う海斗に、俺はわけが分からず「はぁ」とため息をもらした。
オタク≠ニは趣味があっただけで一瞬と仲が深まるものなのか、俺にはよく分からない。
「楽しくなりそうデスね、夏祭り=I」
そう、今日は毎年恒例の夏祭り≠ネのだ。