行方不明の姫

□奇襲
1ページ/11ページ

 走り回る音や言い争う声で騒がしいはずのホウオー室に比べたら、今日のホウオー室はかなり静かである。
 なぜなら二年生が修学旅行のため、ホウオー室はいつもより人が少ないのだ。

 ガチャ、と扉の開く音が聞こえ、そこに目を向けると、天香が堂々とホウオー室に入ってきた。

 昼飯は焼きそばパン≠ェ通常となっている天香が、今日は違うパンを持ってきた。
「それなんなんデス?」
「これナン≠ネんです」
 海斗と同じ言葉を返したと思ったら、天香の手中にあるパンをよく見て納得した。

「ナン! それ僕食べたことないんデスよ!」
 海斗が目を輝かせながらナンを見て言ったあと、カレーを持った優がホウオー室に入ってくる。
「優……お前ここにいなかったか?」
 俺は、ソファに座る海斗の横に指さした。
 てっきりそこにいるのかと思っていたからだ。
「え!? 僕はお昼休みになってから席を外してたよ!!」
 優は眉間に皺を寄せ、自分の存在を知らしめようと強く言った。

 その間に天香は俺の横に腰を下ろし、天香は優を隣に座らせるよう施す。
「優サンがカレーなんて珍しいデスね? お母さんの手作り弁当じゃないんデスか?」
「このカレーは僕のじゃないよ。天香ちゃんの」
 優が、海斗の質問に受け答えながら天香の隣に座った。

「ナンにはカレーデスもんね」
 天香が待っていましたとばかりにナンを食べ始める。
 ライスがない単品のカレーを付けながら。

「知ってるかカイト、インド人は基本ナンを食べないそうだ」
 きた、天香の雑学の話。
 コイツはたまに要らぬ話をし始める。
「え! 食べないんデスか?」
「日本に来て、初めて食べるという者が多いらしくてな」
 その雑学に毎回反応を示すのが海斗。
 きっと海斗は三日もしたら忘れてしまうのだろうけど。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ