最弱無敗の神装機竜

□星空のテラス
1ページ/2ページ

眠れなかった。
なぜなのかは、わからない。特に理由は思い至らない。
12歳の小さな体には大きなベッドで、僕は半ば作業のように何度も寝返りを打った。眠気が出るどころか、目は冴えざえとしている。どうしたものか。
と。
部屋のドアをそっと開ける音がした。母さまか、それとも怖い夢を見て目を覚ました妹か。
侵入者はゆっくり、僕のベッドに近づいてくる。横たわる僕の肩を揺する。
「まだ起きているか、賢弟」
「……フギル兄さん?」
どうして、こんな時間に僕の部屋に?
僕の疑問をよそに、フギル兄さんは僕の手を引く。
「に、兄さん!どこに行くんですか?」
見回りの兵士や執事、女中がうろついている廊下に出れば、大目玉だ。
それでもフギル兄さんは、いつもの不敵な笑でこう言った。
「流星群を見に、な」
そういえば、深夜に流星群が見れると、アイリが騒いでいた。
しかし母さまは、たとえ僕と一緒でも、絶対ダメだと反対した。
体が弱いアイリには、この肌寒い秋の夜、外に出ては風邪をひいてしまうだろう。
フギル兄さんに手を引かれるまま、なんとか屋上のテラスに着いた。テラスとはいっても、父さまの趣味がこうじて世界中から珍しい植物が集められた温室だ。
どこからどうやって持ってきたのか、フギル兄さんはテラスの鍵を取り出して開けてくれた。
中に入ると、外よりとても暖かく感じた。
天まで生い茂る樹木のなかで、真ん中だけぽっかりと空いている。
そこから、満天の星空が見えた。
「……わぁ!」
思わず歓声を上げる。これまで見てきたどんな星空よりも、最高に美しい。
宝石が散りばめられたような、煌めく無限の星ぼし。雲もなく、流星群を観察するには絶好の天気といえよう。
と、思ったその瞬間。
「わ、見てください兄さん!あそこで星が流れましたよ!あ、こっちも!」
あちこちを指さしてはしゃぐ僕に、フギル兄さんは苦笑した。
「流星群だからな。そうだ、なにか願い事をしたらどうだ?」
「願い事……?」
「たくさん流れるんだから、ひとつくらい叶うかもしれないぞ。ほら、また流れた」
僕は慌てて、手を合わせて願い事を頭に浮かべた。
母さまとアイリの体がよくなりますように。
背が伸びますように。
機竜の操作がうまくなりますように。
この国が変わりますように。
……フギル兄さんと……。
「ずいぶん熱心だな。どんな願い事をしたんだ?」
隣のフギル兄さんを上目遣いに見上げて、僕は答えた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ