SAO

□雪と桜のコンチェルト
1ページ/3ページ

この人界に桜が咲く頃……《僕》という人間は消えているだろう。
それでも《僕》は、君を一生愛していると伝えたい。
後悔は雪のように舞い降り、ふわりと融ける。
君に出会えて、よかったと。


あのセントラルカセドラルから離れて、彼とともに、どこまでも逃げてきた。
今僕たちは、北の小さなルーリッドという村に、ひっそりと暮らしている。
「ただいま」
という声とともに、住居にしている小屋の扉が開かれた。
「おかえり……キリト」
黒い簡素なシャツと同じく黒い細身のパンツの上に、分厚い上着を羽織った青年。キリトは食料を詰めた紙袋を、両手に持っている。
僕が受け取り、片付けていると、ふと背中に温かく柔らかい感触がした。
「まだ……戻らない?」
キリトの切ない質問が、僕の脳を刺激する。
「……うん」
《僕》という人格は、キリトが知っている相棒の《ユージオ》ではない。
ユージオ・シンセシス・サーティーツーという、整合騎士だ。
あの戦いから逃れて、全てを棄てて、僕たちはここに来た。
僕だって、ある程度の覚悟はしていた。
結局キリトは、僕の中に相棒の《ユージオ》を求めている。
僕の想いは一生、叶わないのかもしれない。
僕の中に眠る《ユージオ》には、一生敵わないのかもしれない。
一生、君に片想い。
一生、《僕》に嫉妬心。
それは廻る歯車のように、追いつくようでずっと追いかけているものなのだろう。
好き。
好き。
好きという気持ちが、表面張力から解き放たれそうな危うい状態。
早く気づいて。桜が咲く前に。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ