SAO

□nurse+cure
1ページ/3ページ

せっかくの休日に、僕は珍しく風邪をひいた。
今年の風邪は猛威を振るっているらしいので、気をつけていたのだけれど。
大人しくベッドに入っていると、玄関の鍵を開ける音がした。合鍵を持っている人物はひとりしかいないので、すぐに誰かわかった。
「よう、菊岡さん」
全身黒ずくめの少年……桐ヶ谷和人が、何食わぬ顔で部屋に侵入してきた。
彼……キリトくんは鞄をおろして、いつものようにソファに座った。
「風邪ひいたの?」
「まぁね……だから今日は帰った方がいいよ」
「ふぅん……アンタでも風邪ひくんだ」
「どういう意味かな、それ」
すると彼はなにか悪いことを思いついたような、いつものシニカルな笑みを浮かべてこう言った。
「仕方ないから、今日は俺が看病してやるよ」
「え、いいよ、悪いよ」
「いいからいいから」
と言って、和人くんはキッチンに向かい、冷蔵庫を漁り始めた。
「うわ、いつになくすごい食材が揃ってるな……買い込んだの?」
僕はサイドテーブルからティッシュケースを取り、鼻をかみながら答えた。
「さっきね。お医者さんが長引くかもしれないって言ってたから」
和人くんは野菜室に置いてあるキャベツを取り出した。
「今年の風邪はしつこいらしいからな……。よし、野菜スープを作ってやろう」
「キリトくん、料理するんだっけ?」
「まぁ、母さんが仕事で詰めてることが多いから、それなりに」
と言って、和人くんは包丁でリズミカルにキャベツを切り出した。
なるほど。見かけによらず、家庭的な面もあるのか。僕の前では、ただの生意気な子供なのに。
手早く野菜を切って、湯を沸騰させて、コンソメと塩胡椒を少量加える。ふわっといい香りがした。鍋をコトコト、10分くらい。
澄んだ色の野菜スープが、ワンルームのテーブル席に運ばれた。
僕は上着を羽織って、ベッドから抜け出した。
「食べて薬飲めよ」
「悪いね、キリトくん……お言葉に甘えて」
「ほら」
と言って、和人くんはスプーンにスープと人参を掬ったものを差し出す。
僕が受け取ろうとすると、ふい、と避けられた。
「?」
ニコニコと微笑む和人くん。
なにか企んでいるようだ。僕はため息を吐いて、彼に訊ねた。
「……なにがしたいんだい?」
どうせろくな事じゃないんだろうけど。
和人くんは「そうこなくっちゃ!」とかわいい笑顔を作り、こう言った。
「看護師さんごっこ!」
「…………」
やっぱりね。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ