SAO

□小悪魔リフレクション
2ページ/4ページ

俺はめげずに、話を続けた。
「いや、俺は自分で言うのもなんだけど、もっとイイヤツなんだぜ?」
詩乃が注文したデザートが届き、
「ま、それは認めなくもないけど」
と言って、詩乃はケーキにフォークを突き刺した。
よかった……彼女の中で、俺はただの騙し屋ではなかった。
「で、つまりはもっと私のことを知りたい、と。そういうことなの?」
俺はうんうん、と頷いて、どっかの官僚みたいに手を組んだ。
「シノンのこと……ゲームの中じゃなくて、リアルのこと。知りたいんだ」
「それ!」
「?」
突然フォークを銃口のように突き出して、詩乃は言い出した。
「『シノン』じゃなくて、『詩乃』って呼びなさい、キリト。リアルの私を知りたいなら、ね」
「……なら俺のことも、『和人』って呼んでくれないか?詩乃」
俺たちは睨み合い、そして同時に噴き出した。
「『その人がいるところが現実』って言ってた人が、そこにこだわるかなぁ?」
と俺が腹を抱えながら尋ねると、詩乃は俺と同じく腹を抱えて答える。
「それもそうね、もういいわ。詩乃もシノンも私なんだから」
そう言って、詩乃はケーキを崩しにかかった。
『詩乃もシノンも私』……彼女がそう割り切って、あるいは思えるようになった経緯は、簡単なものではない。
かくいう俺も、どこかで『キリト』と『和人』を分けていた節がある。みんな、そうなのかもしれない。現実とは違う自分を演じる……VRMMORPGとは、それすら楽しむ遊びなのだろう。
でも、だからこそ怖い部分がある。
新川昌一と恭二兄弟のように、のめり込みすぎて現実を見失う。ネット社会の闇と言えるだろう。
ネットが全てではない。ネットは必ず、現実にも繋がっている。
現実と向き合う力が、勇気が、俺たちには必要なんだ。
最近の出来事をあらかた話し終えて、俺たちはカフェを出た。
「シノン、このあと時間あるか?」
「大丈夫だけど……なに?」
「ちょっと寄りたいところ」
と、ヘルメットを詩乃に投げて寄越し、俺も被ってキーを差し込む。
環状線をぐるりと走って、遠心力を感じてから、小さなバイクは横浜方面に向かった。
二十分かかったか、かからないかで、目的地に着いた。
「山下公園なんて……キザな選択ね」
夕闇が迫った開放的な公園で、詩乃と俺は風を浴びている。
「いいじゃないか。来たことは?」
「当然、ないわ。というか、東京に来てから遊びで出たのって、ダイシーカフェだけよ」
「淋しい生活だな」
「悪かったわね」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ