勇者がヘタレで臆病な場合。

□十六話目
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「………。」

ジェミニは静かに体を起こした。
まだ外は暗い。
でも、ジェミニにとって今の時間帯は朝に含まれる。
そして、それは彼も同じだったらしい。
ジェミニはふと隣を見ると、一人足りない事に気付いた。
銀色の勇者は昨日の夜と変わらぬ格好でぐっすりと眠っている。
どうやら寝相はいいらしい、と思いながら、ベッドメイキングを終え、部屋の外へ金色を求めて出ていく。
部屋のドアを閉め、階段を降り始めた頃、宿の外へと続く扉の閉まる音が聞こえた。

どうやら外へ向かっているらしいな、と思いつつ同じく下に降り、外へ向かう。

街明かりもなく、まだ暗い大通りの向こうに金色が消えて行くのが見えた。
暗くて見えないが、消えた方向のそう遠くない所には噴水があった気がする。
宿の明かりに慣れていた目が闇になれるのをほんの少し待つ。
暫くすると、噴水に腰掛ける人影が見えるようになった。

「……シエル」

そう呼び掛けるとその人影は顔を上げた。
そしてぱ、と明るい笑みを向けてくる。
はぁ、と溜息をついて彼の隣に腰掛けた。

「まだ暗い中、外を出歩くのは危険ですよ」

そう、穏やかに叱っておいた。
シエルは「んー」と、返事なのかそれともただ唸っただけなのか、不思議な答えを返してきた。

暫く沈黙が続いていたが、徐々に空に明かりが灯り始めた頃、シエルが口を開いた。

「ジェミニ、強い事は…孤独?」

何故、そんな事を聞くのか、とシエルを振り向いてみるも、シエルは空を見上げて、目が覚めはじめた鳥の歌声に反応をしているようだった。

そうじゃなかったら、聞かなかった事にして、と言いたげだ。

ジェミニは溜息をつく。
何故急にそんな質問をするのか、と疑問に思うが、何故か答えなければいけない気がして、答える。

「強い事は、孤独ではありますが……その全てが寂しく、悲しい訳ではないと思いますよ」
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