勇者がヘタレで臆病な場合。

□二十一話目
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案内された部屋は綺麗で広く、また景色も良かった。

「…僕の名前でこんないい部屋が取れるって言うのはちょっと良く分からないな。」

「仮にも勇者ですからね」

「仮にも、ね」

自分自身で自分自身に、アミルは苦笑を漏らした。
あの会話以来、シエルはうんうんと唸りながら何かを考えている。
しかし、答えが出なかったのか。
体をベッドに投げ出す。

「……わすれることは…かなしいことなのかな」

再び出た質問に、アミルが答えられるわけがない。
ノエルも戸惑った様に視線を泳がせる。

「…わすれることが悲しい事かは知りませんが、わすれられる事が悲しい事なら…知っていますよ。」

シエルは答えを求める様に、ジェミニを見上げる。
ジェミニはそんなシエルを見下ろしつつ話す。
アミルの頭が「嫌な予感がする」と告げた。

「例えば、貴方の大切な人が死んでしまった。他の人はその人の事なんてすぐに忘れていってしまった。そして貴方も忘れてしまう。…そうなってしまったとしたら、誰がその人の存在を証明できるんです? 存在を証明できなければ、存在しないものと同じなんですよ?」

ジェミニは、何処か怒ったように、一息で捲し立てた。
それに対し、シエルは「…存在、証明…非存在…わすれる…二度と、逢え、無い」と呟き、目を虚ろにしていく。
不気味な静寂、異様な気配に、ジェミニすら一歩後に下がった。
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