勇者がヘタレで臆病な場合。

□二十二話目
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「気にしていたの、かな」

アミルは荷物を抱えなおして問う。
ジェミニは「さぁ、僕には分かりません」と答えるが、その声にいつもの勢いはない。

「ただ、記憶のつっかかりが一つ取れたようではありました。けれど、別の記憶が思い出せない。中途半端に思い出したから、焦ったのでしょう」

そう言いながら、ジェミニは首を傾げるアミルの紙袋からリンゴを一つ取り出す。

「お馬鹿なアミルさんにわかりやすく説明すると、今のシエルさんは…」

リンゴを掌で一回転させ、アミルの口に押し付ける。
意図は読めないが、アミルはリンゴを一口齧った。
甘くて美味しい。
適度に酸っぱく、皮は少し渋い。
歯触りが楽しい。
昼食をまだ摂っていないからか、酷く美味しく感じた。
二口目を齧る前に、ジェミニは取り上げる。

「今のアミルさんみたいに、お腹を空いていた事を忘れていたのに、中途半端に食べてお腹がすいてしまった状態です」

なるほど、確かにわかり易い。
わかり易いがこんな形で教えるのはやめて欲しい、お腹空いてそれどころじゃなくなりそうだ。
そんな事を考えつつリンゴをじっと見つめる。
両手が塞がっているから手は伸ばせない。
……つまり、今シエルは何となく分かっているのに、思い出せなくて、それが辛いのだろうか。
そんな解釈がアミルの頭を過ぎる。

人混みにぶつからない様に正面を向いたジェミニは小声で

「……僕の過去を、押し付けるべきでは無かったと、反省しています」

そう呟いていた。
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