勇者がヘタレで臆病な場合。

□二十三話目
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「そうですねぇ…聖堂内に猫さんが飛び込んでしまったとかで…ミサの後暫く封鎖されていましたね…」

アミルがシスター達に話を聞いている間、ジェミニはずっと教会を睨みつけていた。
魔術師と教会が特別仲が悪いとは聞いた事が無いが、
魔術師は黒魔術…つまり攻撃魔術で、教会は白魔術…つまり回復魔術を扱い、名前を見て分かる通り相反する存在の為、時々衝突する。
特に教会は、過激な所では黒魔術を悪魔の所業と呼ぶのだから、特別仲が悪い訳では無いが、良い訳でも無いらしい。
アミルとしては、回復魔術にも興味を持ち、研究せんとする魔術師の方が好意を持てるのだが、世間様はそうでもないのだろう。
ここまでで、シスターや熱心な信徒さん、ミサに顔を出しただけの人等に話を聞いても、猫が入り込んだから外に出る様に言われた、と口を揃えていた。
教会を睨んだままのジェミニの元へ駆け戻る。

「ジェミニさん、どうしたの?」

声を掛けると、ジェミニはいつの間にか強く顰められていた表情を解いて、アミルに振り返った。
まるで皮肉るように嗤った顔だ。

「…黒魔術を嫌う教会が、黒魔術を使ってるってどう思います?」

その笑みに、教会の方を凝視してみるが、魔術の気は感じられなかった。
魔術師のみにわかる独特のカンという奴なのかも知れない。

「…で、皆さん同じ事を言ってるんですか…本当か…若しくは本気でそう言われたか…」

そう言いつつジェミニは教会の扉を押し開けた。
中の空気は少し重かった。
ジェミニに続いてアミルも入ろうとする。
その肩に小鳥が乗り、足元に風がまとわりついて、一緒に入ろうとする。
しかし扉をくぐった瞬間、そのどちらもがはじき出されて、アミルは一瞬呆然とした。
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