ー 恋文 ー

□9.早すぎた蛍 (前編)
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「よかった。」

「何が、ですか?」

「ほら、あそこ。」


先に沈黙を破ったのは彼女で。その指差す先には長い葉の先に寄り添うように二つの光が明滅する。


「寝付けなくて、部屋を出たら蛍が一匹だけ飛んでて…その子を追いかけてきたんです。まだ少し早いから、心配だったんですけど。」

「…同じですね。私も蛍を追いかけてここまで来たんですよ。じゃあ、一匹は貴方が、もう一匹は私が追いかけてきた蛍でしょうか。」


全く同じ理由でここにいたことに驚いた。
なのに、あの蛍達のようには寄り添えないもどかしさにため息が溢れる。


「ねぇ、土井先生?口付けをされても、嫌じゃないってどういうことなんでしょうか…?会えないと寂しいって、普通ですか?」

「…ああ、そういえば利吉くんと付き合っているんでしたね。好きなら普通のことなんじゃないですか?」


お互いに視線は蛍へ向けられたまま。会話が進む。
私は今、どんな顔をしているんだろう。あからさまに素っ気なくなってしまう言葉に嫌気がさす。


「どちらも、好きだということなんですか?じゃあ、会えたときに喜びよりも苦しくなるのは…こんなに胸が締め付けられるのは、なんでですか?」

「…え?」


質問の内容が変だと思って、彼女の方を向くと今にも泣き出してしまいそうな瞳が私を映して揺らめく。あまりにも苦しそうに歪むその姿に、今の言葉が、誰に向けられたものか…その意味はどういうことなのか、結論が出る前に抱き締めて仕舞いそうになるのを必死で押さえる。






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