ー 恋文 ー

□9.早すぎた蛍 (前編)
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「私は、恋なんてしたくはないです。そんな薄っぺらい感情で、大切な人と繋がっていたくはないんです。」

「…本当に、どうしたんですか?利吉くんと何かあったんですか?…喧嘩でもしたんですか?」


なんでだか、随分と彼女が弱っているのが伝わる。彼の名がこれ以上踏み込んではいけないと、私を制す。…向き合ったまま指一本動かせない私は臆病者だ。


「…なんでも、ないです。変なこと言ってごめんなさい。忘れてください。」


少し考えて、彼女はそう言うと視線を蛍へ戻した。
だけど、その笑顔はやはり苦しくて。

どうにかしたかった。


「私は。あの蛍は、間違えて少し早く成虫になってしまったもう一匹が独りになってしまわないよう、追いかけてきたんじゃないかと思うんです。」

「…そうだと、素敵ですね。」

「私も、今夜、貴方が一人になってしまわないよう、無意識にここへ来たんじゃないかと思うんですが…ってちょっとくさすぎますね。」

「え?」


驚いて大きく見開かれた瞳が再び私を捉える。








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