忍恋
□3.土井先生の大切な人 の段
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土井先生は彼女の事を名無しさんと敬称を付けずに名前で呼んでいた。長い艶やかな黒髪に見てると吸い込まれそうな漆黒の瞳、人形のように整った顔立ち。一目で誰もが魅了されるような美人だった。
こんな美人の恋人がいたなんて。先生の様子からすると、どうも過去のことらしいが名無しさんさんは先生の頬に口付けて「別れた覚えはない」と言う。
だけど、土井先生と知り合ってから初めて会うしなあ〜。
土井先生は名無しさんさんを大切そうに抱き上げると医務室へと向かってしまった。その様子は、まるで恋人同士で。
なのに、先生が先生じゃないみたいに名無しさんさんにはどこか冷たく感じたのが気になった。
「ね〜、きりちゃん。どう思う?」
「どうって…そりゃ、大切な人には間違いないんじゃない?」
「っていうことはぁ…やっぱり、恋人ぉ?」
「…今でもあんな大切そうなのに、なんで、別れたんだろうな…。」
俺の言葉に一瞬しんとなる。
あれから、三日経っていた。土井先生はやっぱり、心ここにあらずってな感じで授業が終わるとすぐに何処かへ向かっていた。その行き先が俺たちは医務室だと確信していた。
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