忍恋

□5.私の記憶 の段
1ページ/2ページ



「何か食べれそうか?」


私から目をそらしていた彼女がビクッと小さく体を震わす。


「いらない。」

「なら、薬だけでも飲んだ方がいい。白湯を持ってくるよ。」


そういうと、立ち上がり食堂へ向かう。おばちゃんから白湯を受け取り手が震えていたことに気がついた。医務室に戻ると新野先生がいた。

私は彼女が起きていることと、薬を飲ませようと白湯を取りに行ったことを告げ、白湯を渡すと後を新野先生に任せ部屋へ戻った。

なんで、彼女はここへきたんだ。


「なんて顔してるんだ。」

「…山田、先生。」


きっとひどい顔をしてるんだろうな。
ここに来るまで彼女の事は、誰にも話したことがなかった。いや、話せなかった。もう、六年も前の事なのに。


「…半助。」


心配そうに名を呼ぶ山田先生に、平静を装ったところで無意味だ。きっと、乱太郎たちに「恋人」だと聞いているのだろう。誤解を解くためにも話しておくかと思った。





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ