忍恋

□10.掴めない距離感 の段
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次の日。
忍びには絶好の仕事日和。朔月だ。


「…まずいな、朔月、か。」


だけど、私の気持ちは浮かなかった。嫌な予感しかしない。こんなときに限って、面倒な仕事を請け負ってしまった。終わり次第向かったところで、明日の昼になるか…。


「くそっ。」


自分のペースを乱されている。私が、たかが一人の女に。これではいけない、いつか敵に足元を救われてしまう。分かっていても、仕事の間中、彼女のことが頭から離れず、早く駆けつけたい衝動にかられた。

そして、二日ぶりに私は忍術学園についた。
部屋は忍たま長屋の空きだと聞いたけれど…誰に聞こうか。そう思いながら、入門表にサインをしていると六年生の食満留三郎と立花仙蔵の会話が聞こえた。


「仙蔵、寝不足だな?…また、女か?」

「…まあな。留三郎もなんか疲れてないか?」

「ああ、伊作が女連れ込んでて。」

「伊作、がか?どんな?」

「…あれだよ、例の医務室で伊作が押し倒してたって言う。」


最後まで話を聞かずに六年生の長屋に走る。彼女の名前を呼ぶ、善法寺伊作の声がして立ち止まる。


「僕、伊作ですってば!お、襲いますよっ!」

「へえ。誰が、誰を襲うって?」


開け放たれたままの部屋を覗くと彼女は彼の腰に腕を回し抱きついて寝ている。イライラする。


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