一万ヒット感謝企画SS。

□囚われ人。
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昨夜、この腕に抱いたときもう他には何も要らないとさえ思えた。それは初めての感情で、冷静さが保てなくなるほどの想いに、怖くもなる。
「共犯」だなんて都合のいい言葉で踊らされているだけなんじゃないだろうか。


「…そろそろ、帰るね。自分は滅多に帰ってこないくせに、帰ったときに家にいないと機嫌が悪いの。」

「ああ。」


せめて、私といるときくらい忘れて欲しいものだな。
深みにハマるつもりはなかった。
彼女は彼への腹いせで、私はつまらない日々のちょっとした刺激になればと思うくらいだった。ギリギリの駆け引きを楽しめればそれでよかったのに。

十四も上の、帰る場所がある君に惑わされ手を取って悪戯に重ねた時と触れ合うけれど一線を越えない体。ほんの少しの戯れ程度の温もりを分け合う度にいつの間にか重ねたいものが変わって来たことにどうしたものかと思い悩む。
一線を越えるつもりはなかったのに。悔しいほどに魅了してやまない彼女の絹のような肌が淡い桜色に染まるとき、もう、戻れないことを知った。何時ものように、止めることが出来なかった欲は深さを増す。

「ねえ。」

「なんだ?」


着物を整えた彼女は振り返らずに私に問う。





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