君の呼ぶ声
□4. 言い訳 の段
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「私、もう部屋に帰るね。」
埋まらない想いを誤魔化すように、温もりを分けあったはずなのに、深まるばかりの傷。
その瞳は不安色から孤独色へ深さを増す。どうにかしてあげたいのに、触れたら壊れてしまいそうで知らない振りをした。私は、その破片で自分が傷つくことを恐れた。
「…送るよ。」
「うんん、大丈夫。」
伊作は、小さく「そう。」と呟いて出ていこうとする私をぼんやり眺めていた視線を伏せた。
「留三郎。」
「…お前な、ったく…まあ、いいわ。」
「ごめん。こんなつもり、なかったんだけど…伊作…なんか荒れてて。」
部屋を出るとき彼がそこにいないことに、安堵した。けれど、それはつまり私ちが何をしていたのかバレているということで。少し歩いた場所に縁でぼうっと月を眺める彼を見つけて私は求められてもいないしょうもない言い訳をした。
「あいつは俺とは違うんだ。お前だけなんだから、ちゃんと見ててやれよ。」
「…うん。分かってる。」
「じゃ、俺はまた寝るとするか。」
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