君の呼ぶ声
□5.僕の想い の段
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次の日もその次の日も名無しさんちゃんは会いには来なかった。そろそろ潮時だと感じていた。
「格好いいだけの男ってずるいよなー。」
「なんだよ、それ。」
食堂でランチを受けとる留三郎は後からやって来た後輩が急いでいることを知って順番を譲る。そういうことを極自然とやってのけるんだから、彼女の言う"格好いいだけの男"を間違えようがなくて嫌んなる。
「留三郎、いつまで名無しさんちゃんこのままにしておくつもり?」
「…なんの話だよ。俺は、こ」
「名無しさんちゃんは留三郎に惚れてるんだよ。」
「っ!お前なあっ!」
何処までも惚けようとする彼に引導を渡す。留三郎は僕の方に向き直り大袈裟にため息をついて見せる。
「お前の女だろ?…お前がどうにかしてやれよ。」
その突き放すような言い方にカチンときた。僕がこの言葉を口にするのに、どれ程の勇気を必要としたのか、彼にはきっと分からない。
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