伝えたいから伝わらない の段
□伝えたいから伝わらない の段二
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久し振りに幼い頃に飼っていた犬の「こん」の夢を見た。ふわふわの毛が心地よく、温かい。私はぎゅっと抱き締める。
「と、留三郎…。」
「どういうことなんだ?」
「んもぉ〜。うるさいなぁ。」
「小松田さんを呼んでくるようにと吉野先生から頼まれて、だな。だあ〜!もうっ!着物を直せっ!」
どうやら、私は寝てしまったらしい。
私は、夢うつつの中で腕からすり抜けようとする「こん」を離すまいともう一度ぎゅっと抱きしめる。
温かいなあ。
「うん。こ、ん…。」
「あっ、名無しさんさん!おはよぉございまぁす。…こんってぇ、誰ですかぁ!」
「っ!」
物凄く近い場所にちょっと赤い顔をしてちょっと怒った小松田くんの顔があり、私が抱き締めていたのは彼だと知った。一気に目が覚め、その場に飛び起きると、彼の着物は乱れており肩の辺りまで大きくはだけている。
私の頭は混乱した。
「な、な、な、な、な、なっ!」
「待て。それはこちらの台詞だ。」
気がつかなかったが、六年生の食満留三郎くんと善法寺伊作くんが顔を真っ赤にして何とも言えない顔でこちらを見ている。
障子から差す日は、いつの間にか夕焼け色をしていた。
「ど、ど、ど、ど、ど!」
「待って。それはこっちの台詞だから。」
今度は食満くんよりも更に顔を赤くしている善法寺くんが頭を押さえながらため息混じりに言う。
慌てて私は自分の着物を確認する。よ、よかった!乱れてない。でも、なんで小松田さんと一緒の布団で寝てたんだろう?
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