伝えたいから伝わらない の段
□伝えたいから伝わらない の段 三
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それからというもの、近寄りがたい雰囲気がなくなって一年は組を中心に人気者になってしまった名無しさんさんはいつも囲まれていた。
上級生など一部はまだまだ疑って警戒しているが、それで彼女が気に病んでいるようなことは無さそうだった。
名無しさんさんが笑っているのは僕も嬉しい。
まあ、七松くんが彼女を気に入ってしまってよく二人でいるのを見かけるのは…嫌なんだけど。
「こーまーつーだーくーんっ!また、発注ミスしてるっ!」
「えーっ!すみませぇん。」
「んもぉ。小松田くんは…仕方ないなぁ。私がこれ直しとくからこっちやって。」
「はぁい。そうだ、次の休みは空いていますかぁ?お詫びに奢るから餡蜜でも食べに行きましょお。ついでにうちの家によってぇ、兄ちゃんにも紹介したいし。」
「えっ!あっ、え?う、うん!」
名無しさんさんは戸惑ったような返事だったけれど、気にしない。やったぁ!これって、でぇーとだ!
頬を桜色に染めている名無しさんさんを見て、彼女もでぇーとだと分かっていて了承してくれたんだと知り、尚更、僕を浮かれさせた。
名無しさんさんは僕の特別だった。
なのに、それから数日後、彼女は僕になにも言わずに学園を出て行ってしまった。
学園長先生は「退職届けが出された」とだけしか言わない。先生方も一切、彼女の話をしない。
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