一万ヒット感謝企画SS。
□囚われ人。
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「どうして、今日は…抱いたの?」
「…さあな。」
震えているその声に、妙な満足感を覚える。
君は私を縛れない。
私は君を縛らない。
居ても居なくても変わらないと、振る舞おう。追い掛けて泥沼にハマって抜け出せなくなればいい。
そうじゃないと公平でない。
君が欲しいだなんて微塵も伝はしない。ただ、欲に染まるその時だけ、私の物になれると君が覚えるまで。
「そっか。」
君を縛り付ける薄っぺらな制約。
本当に欲しいものはそれでは手に入らないことを私は知っていた。私を想い、他の男に抱かれればいい。そうする度に体も心もがんじがらめになっていく。蜘蛛の巣に掛かった蝶のように。
君の全てを支配したい。
「名無しさん。」
「えっ?だ、ダメだよ。帰らな、きゃっ。」
出て行こうとする彼女の手を引いて試すようにもう一度その体を布団へ沈める。段々と深くなる口付けに着物を乱されても抗うどころか受け入れる彼女にほくそ笑む。
「何が、ダメなんだ?はっきり言わないと分からないな。」
「んっ、仙蔵くんっ。…止めちゃ、ダメ。止め、ないでっ。全部、奪ってよっ。」
「!」
逃がしてやることは出来ないけれど、どうしようもなくなって何もかも失って、もう、私しかなくなったときは…。
「ああ。その予定だよ。」
普通でない、この想いを君は受け入れざるを得なくなる。
囚われたのは、君か私か。
→あとがき