ゆめへ…short
□ついてない日は の段
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綺麗に巻き直し、満足そうに、でも熱で少し苦しそうに、にこっと微笑む。僕はとっさに彼女の腕をつかんで額に手を当てると驚いた。
すごい熱だ!
「そうみたいなのって、すごい熱ですよ!」
慌てて手際よく布団を敷き、横になるように促す。その間に薬を用意して名無しさんさんのところまで持っていくと、布団の側に座り白湯と薬を渡す。
「どうしたんですか?お薬飲んでください。」
「伊作くん…。このお薬は…甘くなんて、ないよね…?ね、寝れば直るから、お薬は大丈夫…よ。」
消え入りそうな声で彼女は言った。…つまり、飲みたくないということなんだろうか?
「だめですよ。お薬ちゃんと飲まないと良くなりませんから。」
「…ううぅ…。へ、部屋に帰ります。もう、治りました。」
「…名無しさんさん。」
絶対に飲もうとはしない彼女に一つ大きく息を吐くと、彼女の肩を掴みそっと体を起こす。反対の手で薬を白湯に入れて混ぜ自分の口に含むとおもむろに顔を近付けた。
「えっ?えぇっ!?」
ごっくん
「「……。」」
「い、伊作くん?」
あと、ほんの数センチのところで僕は風邪薬を飲み込んでしまった。僕にはそんな勇気はないらしい。真っ赤になってうつ向くと、同じくらい顔を真っ赤にした彼女は小さく謝罪し、蚊の鳴くような声で「ちゃんと飲みます。」と言った。
新しい薬と白湯を渡すと彼女は物凄く苦々しそうな顔をしてそれを飲む。
「これで、よし。後はゆっくり寝てください。」
「は、はい…。」
何とも恨めしそうな目で僕を見る彼女は羞恥のせいなのかさっきよりも頬を赤くし、瞳を潤せている。僕は妙な空気を誤魔化すように湯呑みを持ち、立ち上がると、彼女はモゴモゴと何か言い目を閉じた。
薬のお陰かすぐにスースーと規則正しい寝息が聞こえてきて。
「嫌われちゃったかなあ…。」
彼女の横に腰を下ろして顔を覗き見る。
睫毛が濡れて、尚更、色っぽい彼女の寝顔。
外はいつの間にか雪が降り始めていた。
「い、さくくん…。」
「どうしました?って、寝言かあ…。」
貴女の夢の中で僕は何をしているんだろう?ちょっとだけ夢の中の自分が羨ましくなる。すっと立ち上がろうとすると、袖を掴まれた。
「傍に、いて…。」
「えっ?…って、寝言?」
袖を彼女の手から離して自分の手を重ねるときゅっと握り返してくる。さっきまでの苦しそうな表情が安心したように和らいだように見えた。
外は雪。
このままずっと手を繋いでいられるなら。
想いは積もるばかりで…僕を苦しめる。
だけど。
どうか、溶けて消えないで欲しいと願った。
きっと起きたら君はまたみんなに囲まれるんだろう。
重ねた温もりに、少しだけ。
胸の奥がぎゅうっと締め付けられるような。
今だけ、今だけは。
君は僕のもの。
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