ゆめへ…short

□大人になりたい の段
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「あれっ。」

「どうかしましたか?」


私と土井先生は明日の節分に備え、買い出しに来ていた。ちょうど、お昼時になりうどん屋に入ろうとしたときだった。


「いや、今、きり丸くんがいたような…。」

「え?きり丸が?ああ。そういえば、あいつは朝からバイト行くって外出届けを取りに来ましたから。」


一瞬、驚いたような悲しいような複雑な表情のきり丸くんがちらっと見えた気がした。けれど、土井先生に返事をして振り返るともういなくなっていた。


「でも、見間違いかもしれません…。」

「そうですか…。もし、きり丸だったら、ただ飯にありつこうと思って追ってきますよ。」


土井先生はちらっと辺りを見渡すと、暖簾を捲り「どうぞ」と言って私に入るよう促す。
お品書きに目を通し、注文をすませると私はずっと気になっていたことを聞いてみる。


「きり丸くんはなんであんなにアルバイトしてるんですか?確か、先月は実入りがよくて学費がたまったって…。」

「うーん。来期の分までためてるのか…。最近、妙に張り切ってて。まあ、アルバイトはあいつの習性のようなもんですから。」


土井先生はそこまで言うと来たばかりのうどんを「食べましょう。」と手を合わせた。彼は食べるときは必ず「いただきます」、食べ終わると「ごちそうさま」と手を合わせて言う。
私は彼のこう言うところがたまらなく好きだ。

食事をし、買い物を済ませて帰ると赤ん坊の泣き声が学園に響いていた。


「さては、あいつ私を当てにまたアルバイトをもって帰ったな。」

はあー。と盛大にため息をつきながらも「名無しさんさんすみません、ちょっと行ってきます」と向かっていくところに二人の関係がみてとれ微笑しくて、少しだけ羨ましいような気持ちになった。

「あっ!私も行きます。」

小さく「えっ?」と言った土井先生は、小走りに追いかけてくる私を見て優しく微笑むと追い付くのを待って「何も名無しさんさんまでアルバイトの手伝いをしなくても。」と今度は苦笑いになって。

並んで歩いてくれた。




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