ゆめへ…short

□結い紐 の段
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綺麗な女だな。それだけだった。
それは桜の散る頃だった。最近、やたらよく学園へ来る彼女はここの教師の後妻らしい。形だけのもので、休みの日でも家には帰ってこない夫に会いに来ては追い返されているのを、私は知っていた。


「失礼。中へ入りたいのですが。」


学園長から受けた簡単な忍務をこなし、帰ってきたところで門前払いされた彼女と鉢合わせる。ぼーっと門の前に立っているものだから邪魔で仕方ない。


「あっ、ごめんなさい。」


避けようと後ずさった彼女がバランスを崩す。関わりたくなかったけれど、女性が転びそうになって放って置くのは私の美学に反するため仕方なく後ろに手を回し抱き支える。その顔はひどく傷ついているようだった。
いつものことなのに。






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