ゆめへ…short

□甘い罠 の段
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夢を見た。

私は骸がひしめき合う戦場の中を歩く。特別、何も感じはしない。見慣れた光景だった。向かう場所はわからないのに、足は迷う事なく進む。這って追いかけてくる、事切れているはずの人間だったものはもはや怨念の依り代のようで。思いを向かわせる方向を忘れたのか、ひたすら私を追いかける。
足を捕まれ、面倒だと振り払おうとして初めてそれを視界にいれた。


「お前は…。」


目覚めて火傷を負っていない皮膚がじっとりと気持ちの悪い汗をかいていることに気が付く。なかなかに寝覚めの悪い夢を見た。
軽く疲れたようなため息をついて、太ももの辺りに重みを感じる。体は起こさずに視線を向ければ栗色のふわふわとした恐らく髪が目に入った。

いつから、どうしてここにいるのか。

まだ目覚めきれていない体を片手をつき上半身だけ無理矢理に起こすと額から濡れた布がずり落ちた。ぼんやりと辺りを見回す。水が張られた桶とそれにかけられた手拭い。湯飲みとそれに立て掛けられた薬の包まれたような袋。部屋も私の部屋ではないな。

そして、彼女。

そうか、何となく具合が悪くて薬を貰いに、という口実で彼女に会いに来たんだったな。彼女は私を見るなり異常に騒ぎ立てて変な薬を飲まされて…。結構、強力な薬をああも自然に飲ませるなんて彼女もなかなかやるようになったな。…それとも、私が思っていた以上に体調が良くなかったのか?
彼女の髪に触れながらそんなことを考えていると、僅かに身動いだ。








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