ゆめへ…short

□ My Fair Lady の段
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《留三郎side》


梅雨時期のほんの少しの休息のように晴れ渡った空には雲ひとつなく。時折、湿度を含んだ風が心地よく過ぎ去る。


「伊作ってなんであんなに不運なんだろ。」


俺たちの部屋の前の廊下に座り顎に手を当てて。伊作が落とし穴に落ちる過程をただ見ていた彼女は「不思議だ」と首をかしげる。


「名無しさん、お前なぁ、分かってたなら教えてやれよ。」

「あ、留三郎いたの?いやあ、だって伊作が近づくと狙ったように風が吹いて罠の目印飛んでったんだよ?教えても落ちてたよ。きっと。」


来る前から部屋の中にはずっといたんだけれど、気づいてもいなかったのか。彼女はくのたまの六年で俺たちとは一年の頃からの付き合いだ。伊作が落とし穴に落ちていたのを一緒に引き上げた事がきっかけで仲良くなりしょっちゅう三人でつるんでいた。

低学年の頃は。

流石に高学年に入るとそうもいかなくなって来たけれど、最近はよくここへ来ては伊作がどういう風に不運に見舞われるのかを観察していた。だけど、彼女がするのは観察のみで。今回も助けを呼ぶ声には一向に動こうとしないのを見かね、丁度修理が終わったばかりの縄梯子を担ぎ俺が伊作の救出に向かう。


「伊作、大丈夫か?……ゆっくり登って来いよ。」

「すまない、留三ぶっ、ろぉ!!?」

「うわっ!ちょ、いっ!!?」


後少しというところで、足を踏み外した伊作に袖を引かれ二人仲良く穴の中へ。殆ど無意識に伊作を庇って下敷きになったため受け身を取る間もなく、全身に痛みを感じた。その下には今修理し終えた筈の縄梯子が……。






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