ゆめへ…short
□ My Fair Lady の段
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「……すまない、留三郎……。」
「……気にするな、同室じゃないか……。」
もう、このくらいでは動じたりするものか、とすっかり悄気返った伊作の頭に慰めるようポンと手を置く。それは、特に、なんて事はない。いつもの光景で。
「うーん。やはり、入り込む余地はなさそう。」
こいつが覗いていなければ。
「……何の話だよ。」
「名無しさんちゃーん!見てないで助けてよぉ。」
穴の上からひょこっと顔を覗かせた名無しさんは眉を潜め訳の分からない事を行って立ち去ってしまった。
いったいあいつは。
「……伊作、出るぞ。」
なんとも言えないため息が漏れる。
元々人目を引く容姿はしていた彼女の女性らしさが、学年を追うごとに徐々に目立つようになってきて。その変化に周りの級友も名無しさんを女として見るようになり、彼女を紹介しろ、等と上級生に詰め寄られることもあった。
「留三郎、名無しさんちゃんは何しにきてたの?」
嫌でも感じてしまった、俺たちがどんなに仲が良かろうが、男と女であるということ。それが、俺には越えられない壁のように感じて。いつまでも変わらないんだと思っていた関係はいつしか妙な距離ができはじめた。
「……知らねぇよ。」
あいつの所へ行ったんだろうことは分かっていたのに。何かが変わってしまうのが怖くて、わざとはぐらかし答えなかった。
「このままでいいはずなのにな。」
この距離感が、無性に。
苦しくなる、理由。
振り返り空を仰ぐと、どこまでも澄み渡って。それは、吸い込まれそうな錯覚を覚えるほどで、一歩を踏み出すのが怖くすら感じた。
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