地獄少女

□死にたがりの少年
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それは、いつもの事だった。
午前零時に来る地獄通信。お嬢は直ぐに、仕事よ。とか言って行くのかと思ったら、パソコンの画面をじっと見つめていた。
「お嬢、行かないのか?」
「保留……」
珍しいな。輪入道もそう言ったので、俺で様子を見て来るよ、と言って、俺は動き出した。
「あたしも行こうか?」
「良いよ、俺一人で」
もしかしたら、また面白いもんでも見れるかもしれないしな。



その依頼主の家に着いた。まぁ普通の一軒家か。俺はいつものように、中の様子を伺った。
するとそこには、両腕傷だらけの少年が、地獄通信を終えた後なのか、パソコンの前で伏せていた。
「地獄少女……来ないな……」
俺もそこは疑問に思ってるから、安心しろ、依頼主。もう少し、独り言言ってくれると有り難いんだが、それ以上、彼は何も話さず、ベッドに向かい、眠りに入って行った。
「………うーん」
お嬢は、依頼主の名前だけは教えてくれたが、一体誰を地獄に流そうって考えてんだ?肝心な所を見れてなかったと言うか、お嬢が教えてくれなかった。ますます疑問が残る。

取り敢えず、依頼主の名前は来栖海(くるす・かい)。心理学とかの大学に通ってる3年。バイトもコンビニでしてる。だから俺は、バイト先に潜入し、様子を伺う事にした。



あたかも新人で入ったかのように、俺は彼が居るバイト先に潜入した。彼は夕方しか入れないらしく、俺もそれに合わせて入っていた。
「新人の石元です。宜しくお願いします」
「あ、はい、こちらこそ宜しくお願いします」
笑顔でそう答えてくれた海。けれど腕の包帯が気になった。ここのバイト先のメンバーは、その包帯姿に慣れているらしく、誰も何も言わない。まぁ俺はその中身を知っている訳だが……。俺も取り敢えずは、聞かないでおいた。
そして彼から色々コンビニのやり方を聞き、俺は仕事に取り掛かった。俺が話し掛けようとしても、彼は接客に夢中で、話し掛ける暇なんて無かった。本社から運ばれて来た品物を棚に入れているのだが、呼ばれれば走ってレジへ行く海。真面目と言うか、仕事熱心だな……。そう思いながら、ダンボールを開けていた。その時だった。
「何だぁ、お前。また一人で行動して」
「うわっ!……んだよ、輪入道かよ。つか、何しに来たんだよ」
「お前さんが依頼主を見に行く、と言ってから2日。戻って来ないから気になって皆でこっちに来たんだよ」
「まさか、お嬢も……?」
「当たり前だろ?」
「………はぁ。んで、そのお嬢は今何処に」
「さあな。さっきまで一緒だったんだが……」
ったく、こうやって突然来られると、焦るんだよな。輪入道、気配消すの上手いからさ。
「取り敢えず、俺達、全員客として、ここに来るからよ。宜しく頼むぜ」
「はぁ……」
輪入道はそこにあった煎餅が入った袋を持って、レジの方へと向かって行った。
「石元君、あの人、君のお爺さん?」
ちょっと離れた所で、品出しをしていた先輩にそう言われた。
「あ、はい。まさか来るとは思ってもいませんでした」
はははっと笑って誤魔化す。お嬢が来た場合には、何て答えたら良いんだが……。骨女は、友達で通じるかもしれないが、きくりや山童が来たら、何て言っていいやら……。


初回ともあり、俺の仕事は3時間程で終わってしまった。だから、あまり彼とは話す事が出来なかった。仕方ない。次の時にでも、もう少し話してみるか。


バイト先のコンビニから出て、裏の方に回ると、お嬢と輪入道、骨女、きくりと山童が居た。やっぱりか。
「お疲れ。どうだった?彼」
骨女にそう聞かれた。
「全然話せなかったからなー。何とも言えねぇ。で、お嬢。彼の地獄に流したい相手ってのは?」
「……秘密」
「は?」
「帰りましょう」
何か、今日のお嬢冷たいな……。俺以外は皆、帰ってしまった。俺はまぁ……海の様子を見ないといけないし。取り敢えず、アイツのバイト時間が終わるまで、待つか。


そしてバイトが終わって、家に帰っている海。その時、帰り道にある神社に寄っていた。ほーう。
海の祈りは、心で言うのではなく、口で言っていた。
「神様。俺に憑いている幽霊を早く、取り払って下さい。疲れました」
………んー?幽霊?俺には、その姿が見えねぇんだが。俺、一応妖怪だぜ?普通なら見える筈何だが……。そんな、俺が考えていると、彼の独り言が聞こえて来た。
「……こんな事しても、無駄なんだよな。自分でやった結果じゃないか。自分で、引き付けてしまった」
はぁ、とため息を付きながら階段を降りる海。俺はその時に、彼に話し掛けた。
「よっ」
「石元さん……。偶然ですね、こんな所で会う何て」
「だな。どうしたんだ?」
「………いえ、別に、気にしないで下さい」
そう言って、海は行ってしまった。
「一目連」
この声は……。俺は振り返った。
「何だい?お嬢」
「彼はほっといていて平気よ」
「えっ……。だって、地獄通信に何度も名前を送ってんだろ?だったら……」
「いい加減に気付きなさい。彼が書いている名前は、自分の名前なの」
「………は?え、嘘。そんな……」
俺は状況が上手く掴めず、混乱していた。
「何度も自分の名前を送って来てる。けれど……幾ら自分に恨みがあっても、依頼主自身を流す事は出来ないの」
「……地獄少女を使っての自殺は駄目って事か。けどアイツ、何かに取り憑かれてるみたいだぜ?」
「ええ。………けれど、あれは彼自身が呼び起こした。自業自得よ」
お嬢はさらりと答えたが、俺はそんな依頼、初めてなので余計に気になり、彼を追うのを止めなかった。



学校じゃ特に問題も無く。友達とも仲が良く、教授とも仲が良い。そして、夜に見たあの傷だらけの両腕。つまりはリストカット。けれどその跡は、消えていた。だから包帯は巻いていなかった。
更に疑問が生まれた。夜には必ずあるのに……。何なんだ?この子は。そんな時、急に服の袖を掴まれた。きくりか。
「何してんのー?」
「仕事だよ」
「えー?他の来てるのに?あいつの依頼は無効になってんだよー?」
「そうだけど……」
「ほっとけないんだ」
「………」
「ほっときなよー。あいつ、そのうち勝手に自殺すると思うから。あー、けど、あいつの意思じゃないかもね」
きひっと笑うきくり。またこいつまで意味不明な事を……。けど何故、俺だけが分からない。同じ妖怪なのに……。

そしてその晩に、その理由が分かった。
こいつは、二重人格者だった。そしてどう言う訳か、その海じゃないやつが出てる時は、両腕の傷が浮かび上がっている。
「死にたい。けど自殺は怖い。だから地獄少女……頼むよ……」
なるほど。こいつが依頼主か。けど、地獄に流せるのは、他人何だよ。自分自身は駄目なんだ。分かってくれ。
かと言って、俺はほっとけず、そのまま一ヶ月近く、海と連絡を取ったり、バイトをしたりしていた。



「お前さん、まだ諦めねぇのか?」
「そうだよ。こっちは、戦力が足りないってのに」
「うるせぇな。仕方ねぇだろ。気になって、他の仕事所じゃねぇんだから」
輪入道と骨女に散々言われる。分かってるよ。いい加減にしないと。けど……日に日に、アイツの怨念が強くなってるのは確かだし。二重人格以外にも、アイツの身体に、幽霊が憑き始めたのは確か。このままじゃ、違う地獄に流されちまう。俺達じゃない奴らに流される。それは、避けたい。何故かそう思うようになっていた。

お嬢は相変わらずで。相手にもしてくれない。……皆俺に冷たいね。
そんな時だった。俺の携帯が鳴った。画面を見ると、そこに表示されていた名前は、海だった。
「よっ。どうした?」
『……石元さん、今、何処に居ますか?』
「あ、俺?自分の家だけど?」
『………〇〇駅に、来れますか?ちょっとお話があって……』
「ああ、大丈夫だ。今行くから」
電話を切るなり、お嬢が私も付いて行く、と言い出した。
「何で?」
「………もしかしたら」
そう言ったまま、先を話してくれなかった。


取り敢えず、俺とお嬢だけで、海が指定して来た駅へと向かった。
お嬢は自分の存在を消す事が出来るから、途中からは自分の存在を消して、俺の後についていた。


駅に行くと、海が居た。
「すみません、石元さん。急に呼び出して……」
「良いって、気にすんな。それよりもどうした?」
「……ここじゃ話辛いんで、何処か人気のない所に……」
そう言われるとは。俺達は適当に街を散策した。
そして、寺を見つけたので、そこで話す事にした。寺なら、入って来る人間は少ないしな。
「………あの、信じて貰えないと思いますけど、俺の中に、もう一人、俺じゃないやつが居るんです。そいつが来ると、俺の両腕は傷だらけで……。そして、いつの間にか高いビルの上に居たり……」
ガクガクと震え始める海。俺はそんな海の手を握り締めた。
「大丈夫。落ち着いて話せ」
「すみません……。………それで、地獄通信、て知ってますか?」
「ああ、まぁ……」
「何度も自分の名前を書いて送ってるんです。けど、全然地獄少女が来てくれなくて……。………自分を呪っても憎んでも、俺を流してはくれないんですね」
「………まぁ、自殺に近い行為だからな。色々事情があんだろ」
「………どうしたら、俺に憑いてる幽霊と、もう一人を地獄に流せますかね」
うーん。幽霊なら、俺の力を使えば消えるだろうが、もう一人はな……。そんな時だった。お嬢が突然姿を見せた。
「っ?!だっ、誰!?えっ、さっきまで誰も居なかったのに……」
「何度も私を呼んだでしょ?」
「………まさか、地獄、少女?」
「そうよ」
俺の手を払い除け、海はお嬢に近付いた。
「何で!知ってたんなら、何で来てくれなかった!」
「………駄目なの。自分自身を地獄に流すのは。流せられないの。幾ら恨みが強くても」
「そんな……」
がくっと足から崩れる海。そんな時だった。ここの傍には墓場があるらしく、死にきれない幽霊共が、海の周りに集まって来てしまった。
「こら、てめぇら!来るんじゃねぇ!」
俺は目、を使ってそいつ等を払った。今、こんな海に憑依されたら、何が起こるか分からねぇのに!
「………お嬢。本当に流せねぇのか?」
「……流せる事は出来るわ。ただ、その代償が大きいの。二人分の罪となるから」
あぁ、なるほど……。お嬢にも、お嬢なりの気遣いってか。
「………あなた、まだ生きたいんでしょ?だったら、止めなさい」
「…………」
海は立ち上がれず、顔も上げずに、ただ黙っていた。
「………本当に死にたいのなら、今すぐにでも地獄に流してあげる。どうする?」
海はその言葉を聞いた途端、立ち上がった。
「良い。流してくれ。どんな辛い罪でも、受け入れる」
「………分かったわ。一目連」
「…………はいよ、お嬢」
俺は藁人形になり、お嬢の手のひらに乗っかった。
「……石元さんが、あの藁人形だっただなんて……」
「……説明は、要らないわね。その赤い糸をとけば、契約が成立されるわ」
「………うん」
海は、一度は躊躇ったが、赤い糸を、といてしまった。



その後の事。俺は見たくないから、現実世界に逃げていた。山童が側に居たので、俺はこれで正しかったのか聞いてみた。
「………正しいとか、無いと思います。けれど、彼がそれで解放されるのなら、良いんじゃないですか」
「………」
こんな恨み、こんな地獄流し。俺は初めて見た。だから余計に、分からなかった。それと同時に、更に人間って生き物が、分からなかった。
もう二度と、こんな依頼が来ない事を、願うばかりだ。












END
 

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