■二人の幸せはみんなの幸せ■

□8月の物語〜The end of the summer vacation
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The end of the summer vacation
最後の夏休み

「村田、暑いのに悪いな。」
「いやいいよ、勉強ばっかりもせっかくの夏なのに勿体無いし。」
高三の夏休み本当は大学受験も大詰めで遊んでいる場合ではないのだが、渋谷有利はどうしても親友として村田健と夏を過ごせるのは今年が最後になるかもしれないからと二年前にバイトに入っていた海の民宿に泊まりに来ていた。
今回は客のつもりだったのに人手不足だと泣きつかれて結局昼間はふたりでバイトに入っていた。
今年は磯で流されることなく仕事を終えてやっと海水浴。日の傾きかけた海の波打ち際に長座りして浸かっている有利と、その横で体育座りの村田。

「それにしても夕方にいる水着ギャルは 彼氏もちしかいないなー。」
二年前と相変わらずギャルのネタを言うムラケン。
「そうだな、村田の彼女になりそうな子って昼間もいたかな?っていうか、そもそも村田の女の子の好みってどんなんだよ。」
親友なのにそういえば知らないなあとつぶやく有利に
「僕の好み? うーん可愛くて優しければだれでもオッケー。若干胸が大きい方がいいっちゃいいけどね。」
?それは男子が好きな女の子の基本じゃん。
「なるほど、ムラケンは巨乳好きと。」
両手でメモを取る仕草を真似る。
「巨乳とは言ってないよ。ちょっと大きいのがいいんだってば。」
「ふーん。」
目の前を通った女の子の水着の隙間が真っ赤に日焼けしていて、痛々しそうで目を背けてしまった。
「でも胸はどうでもいいかな? 可愛くて優しければ。」
「へえ。」
「たとえば、こういう子とか。」
と言って村田がユーリを指差す。
「は?冗談。」
「渋谷は 可愛くて優しい。」
そう言って砂の付いた右手で有利の後頭部ガッチリつかみ、左手で右の二の腕を捉えてキスをした。
「うわ、村田!ここは日本だってば。やめっ。っぷ んんっ」
「ふふ、ちょっとしょっぱいね。」
「さっき砂の付いた顔を海水ですすいだから。ってか、まじ、やめてくれよ。」
「ごめんごめん、だって他人の物っていいものに見えるんだもん。渋谷は来年フォンビーレフェルト卿の物になちゃうんだから、そうなったらさすがに僕でも君と二人きりで遊びに行ったり、こうして触ったりできなくなるんだろ?」
「まあ、そうなるのかな。でもあんまり遠ざかられるとちょっと寂しい気もするけどな。俺の立場が今後変わってもムラケンにはずっと親友でいてほしいから。」
「立場?」
「それに、向こうで結婚したところで、日本の戸籍はいつまでも独身なんだろうし。」
「それはどうかな。」
「どういうこと?」
「ボブマジックが出るかもよ。」
「あ、謎の…。」
「どんなのになるか、ちょっと楽しみだけどね。ひょっとしたらフォンビーレフェルト卿がヨーロッパのどっかの国籍をもらって、渋谷と同性国際結婚みたいな形になったりしてさ。」
「なるほど。国際結婚はわかるけど、同性結婚かそっちはちょっと待ってほしいんだけどな。」
「まだひっかかってんの?」
「いや、解決しそうなんだ。それは眞王マジックだよ。」
「ふーん。」
「それより、公衆温泉行こうぜ。それから、宿の親父が海の幸バーベキュー用意してくれるって。」
海からざあっと立ち上がってすっかりぬるくなっている砂浜に足を取られそうになりながら野郎二人で民宿のテラスに向かう。
「やった、バイトしてそのまま海に入ってたからお腹すいたな。」
「うん、おれさっき目をつけていたサザエさんがあってさ。」
「お、キューっと一杯いきたいな。」
テラスの端っこに引っ掛けてあったタオルやパーカーをとってさらに歩く。
「オッサンみたいな台詞。俺らはまだコーコーセーなの。何代か前のあんたはオッサンだったかもしれないけど今は飲酒禁止!」
「えー、ギャルもゲットできなかったのに酒ぐらい許してよ!」
「コーラでも美味いって。」
「コーラ? やだ。
じゃあ、ギャルの代わりに渋谷にする。」
「まだそんなこと言って。あ、それじゃ花火でもする?民宿の売店に小さいけどセット売ってたよ。」
「うわ、花火なんて何年ぶりだろ。」
「おれも、小学生以来かも。花火以外に何いるんだっけ?」
「チャッカマンと、バケツと水だな。」
「よし、親父さんに借りよう。」
「花火で ヴォルフラムくんごっこしよう。」
「ワハハ、それは危なすぎるからやめて。」
あはは と掛け合いながら 有利と村田が公衆温泉に向かう。

貴重な 親友同士の夏休み。

『ムラケン、今後も色々あると思うけど宜しくな。』
『わかってるよ。君を手助けするのが僕の役目なんだから。
でも、時々報酬のキスぐらいいいだろう?』

『そんなのでいいのか?』
『え?もっとねだってもいいの?』



『だめ。』
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