■マ王■

□First K
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それはまだユーリが魔王に即位して間もない頃。
グレタと出会ったときに捻った足首の湯治に出かけたユーリに無理を言ってついて行ったのに。僕は相変わらず船に弱くて、水さえ受け付けなかった。

ユーリは優しく僕の背中をさすってくれていた。
まだまだ魔王としての自覚が足りない。成り行きで婚約はしたものの、一臣下の僕に構わなくていいのに。王たるもの身分を隠した外遊こそ、いろんなものを見聞きして帰国したときのために情報を得なくてはいけないのだ。兄のクセにコンラートは多分ヨザックのところへ今後の予定を打ち合わに行ったのか部屋にはいない。ユーリが僕につきっきりだ。グレタは隣のベッドで眠っている。
「なあ、ヴォルフラム。少しは水分取らないと脱水状態になってくから、ますます体調が悪くなるぞ。ほら、水。飲めないか?」
「ユーリ、せっかくだけど今 姿勢を変えることも出来ない。」
ユーリの方を向いて横向きに丸くなって、船酔いに耐えていた。
手を伸ばしてさすってくれている背中の感触は割と気持ちがいい。
なんだろうこれ、双黒のものを手に入れると不老不死になるとか言うらしいけど、手に入れるってどういうことだろう。
僕を見てくれるユーリをなんとはなしに見つめてしまっていた。なんだか胸の中が熱くなって、ユーリの唇が目に入った。なんだか色づいてきた さくらんぼの果実のように見える。
「ん?ヴォルフラム。やっぱり水飲むか?」
艶やかな唇が僕の名前を呼んだ。
ああ、この瞬間に決定的にユーリに落ちたのかもしれない。
少し頭を持ち上げて無意識にユーリの唇をペロッと舐めた。
「!」鳩に豆鉄砲って顔で大きな黒い瞳をさらに大きく見開いて僕を見て固まった。
僕の方はというと、胸焼けのように痛んでいた胃がちょっと治まってしまった。意識がユーリに向いてしまったからだろうか。
「ヴォルフラム」僕を呼ぶユーリの声が少しかすれている。
漆黒に澄み切った瞳を見つめて、急にありえないほどの愛しさが溢れてきた。
なんだろうこれ。でも止まらない。
「ユーリ」
上半身を起こして魔王陛下の両肘を衝動的につかんだ。そのまま唇を合わせに行く。
「…! ヴォルフラムっ 俺っ 男だよ!っうぷっ」
「ああ。僕もこういうことは初めてだ。」
「ヴォルフっ んんっ」
甘い。ユーリとの接吻が溺れそうに甘い。もっとその甘さが欲しくてユーリの吐息を攻めに行く。
「ああ、ユーリ。なぜだか 僕…、止められない。もう少しだけこのまま続けさせて。」
僕のわけのわからないだろう懇願に慈悲深い魔王陛下は躊躇いながらも控えめに応えてくれた。それが涙が出そうなぐらいに愛しいという感情が溢れ出す。
乾いていたのは何だったのか分からないけれど、甘く満たされていく。僕がユーリの唇を奪って、でもユーリからは怒りのような気は感じられず何だか温かいもので満たされていって幸せを自覚する。

ひとしきり浅く深くキスをして、名残惜しかったけれど、唇を離した。ユーリの呼吸はまだ乱れている。
「はあ、はあ、 なんだよヴォルフラム。びっくりした。」
「…すごいな、双黒って。」
「へ?」
「手に入れたり煎じて飲んだりしたら不老不死になるらしいよ。」
「俺を煎じる?どういうこと?」
「さあ。」
「とりあえず今、船酔いが収まっているんだ。」
「…まじですか?」
「さて、もう少しだけ眠ろうかな。」
胸がスッキリして、やっと穏やかに眠れそうだ。僕は上掛けを引っ張って目を閉じる。
「…俺が眠れないじゃん。あんなすごいチューされて、まだドキドキしてる
。」
ユーリのぼやきを夢の向こうに持って行こう。


FIN

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◇あとがき◇

初めてのチューっての書きたかったんですね。
その割にはちょっと濃ゆいかも

うちのヴォルユのFirstKissシーンは ここらへんかな?
なんて。
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