■マ王■

□結んで
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「村田 お願いします。」
「はいはい。」

ゴールデンウィーク後半 俺たちは地球で買い込んだ衣類を持ち込んで眞魔国に来ていた。
村田は珍しく親子水入らずのショッピングをしたらしい。とはいえ村田の親ももちろん魔族らしいけど、
海外を飛び回っている忙しいお二人だそうなので、俺はまだ会ったこともない。
渋谷家に比べれば、かなりドライなファミリーだという印象だったけど、
ゴールデンウィークに家族で過ごしたって話を聞いて少しほっとしている。

ゴールデンウィークと言っても日本だけのことだから、眞魔国では平日だ。
今日はちゃんと王様業をしに帰ってきた。

俺の方は ヴォルフラムと買ってきた衣類が幾つかあって
今日はそのうちのちょっと大人っぽいダークスーツのセットを着るつもりだったが、
中高ともに学ランの俺はネクタイが結べなかったのだ!

眞王廟から通勤してきた村田はきょうは白いポロシャツにカーキ色のチノパンと、
高校の制服とはまた違うワッペンをあしらったジャケットを着てきている。ちょっと正統派大学生風だな。
一応 魔王陛下の俺と大賢者村田はニコイチで、ある程度コーディネートしないと格好つかないので
「今日は学ランじゃない装いで」と通達はしていた。

シュッシュッ

「なんか世話好きの奥さんが旦那さんの朝の支度をしているみたいだね。
フォンビーレフェルト卿がいなくて良かった。僕が絞められているところだ。」
俺の向かいに立ってネクタイを締め始めてくれる村田が恐ろしいセリフを吐く。
でも
「それはないよ。なんかヴォルフラムのお前に対する態度って俺とは全然違う。ちゃんと大賢者扱いしてるもん。
何故かわからないけど、敬語だしお前の言うことは聞くし。」
「そりゃ、渋谷は婚約者だから僕よりは近しい人って扱いじゃないのか?
最近はますます彼の君を見ている目つきが凄くてさ。」
「凄いって どんな目つきだよ。」
「フォンクライスト卿程じゃないけど、もうメロメロに惚れてるってかんじかな?
午前中からあんな視線を浴びちゃって渋谷って幸せ者だね。」
わー公衆の場でもそうなんですか?
「いやいや、まだ両思いって確定しているわけじゃないから。
俺の方はまだそこまであいつの事考えられないというか…。正直わかんないから。」

自分が魔王だとわかる前も彼女が欲しいって漠然と考えたことはあるけど、
それは周りの連れとの会話の流れだったり、流行りのスニーカーとか洋服とかそういったレベルの欲求であって
本気の恋人が欲しいってわけじゃなかった。
野球第一だったし自分でも同級生よりそういうところ奥手だと自覚していたし。

一応お互いの気持ちは確認し合っているけど、色々な都合があって公表はできない。
都合の最大の理由は おれ寵愛トト とかいうやつだ。


「ふーん」
「あれ?」
村田の手が止まった
「ごめん渋谷失敗した。」
「へ?」
「僕の制服ネクタイついているから自分では毎日結んでるんだけど、人に結ぶのって案外難しいんだね。」
ああ、勝手が反対になるのか。
「結べているようだけど?」
「結び目の形が悪い。此処はスーツならこだわるべきところだよ。」
って言いながらせっかく結んでくれたネクタイを外された。
「ちょっとその椅子に座って。」
村田が示した姿見の前に置かれた背のない椅子スツールに座ると 俺の後ろに村田が回ってきて
覆いかぶさるように腕を回してきた。
「おい村田」
「うん、この体勢なら自分に結ぶのと同じように君にネクタイを結んであげられる。
でもよく見ててね。次は自分でやるんだよ。」
耳元で話しかけられてちょっとくすぐったい。
「あれ?でも渋谷も隅に置けないね。自分の気持ちはわかってないと言いながら
フォンビーレフェルト卿とはそれなりのことをしている?」
「は?」



チュッ

「何するんだ村田っ」
右の耳の下にキスをされた。
「ココにキスマークがあった。まあ、同衾しているんだからそうだよね。」
勝手に納得するな!
「じゃれてくる程度だよ、はっきり言ってココだけの話、…最後までは致しておりません!」
俺はまだチェリーだし!とは口に出さない。
「まあ、ちゃんと結婚式をするまでは清い方がいいかもね。」
「俺もそういう考えに賛成。いやいや結婚式ってまだ自分の気持ちもはっきりしていないのに。」
「結婚式の時の気持ちなんて大したことはないよ愛情は後から育むもんだよ。
恋とは違ってね。そりゃあバッチリ本物の両思いになっといた方が結婚式の時の
気持ちの盛り上がりはいいだろうけど。」
人生経験が他人より何倍も長いやつのセリフは説得力あるねぇ…
「でも、まあ 渋谷が羨ましいよ。あんなに綺麗なブロンドの美少年があんなに愛してくれているなんて、
日本の普通の高校生ならありえないことだよ。魔王になって良かったね。」
うっ そう言われると…
「ああ そうだな。」としか言えないでしょう!

「さて出来た。うん 似合ってるよ 大人っぽくなったな。
渋谷は童顔だから七五三になったらどうしようって思ってたけど。」
「七五三は嫌だ。ああ良かった。ありがとうな村田。」
「お礼は魔王様のチューがいいな。」
「だめ。 昼飯の俺の分のデザートで我慢して。」
「しょうがないか。」

コンコン 「陛下、猊下、時間ですよ」
コンラッドが迎えに来た。同じ建物の中なのに御迎えもいらないんだけどね。

「んじゃ お仕事に行きますかね 俺の大賢者。」
「行きましょう ユーリ陛下。」

激務のまちかまえる ある意味おれの戦場に今日も向かう。


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◇あとがき◇
人にネクタイを結んであげるって結構難しいですよね。
子供の七五三用なら簡単だけど、サラリーマンのかっちりした結び目のやつ。
自分も高校の時はネクタイだったからって 大学のリクルートシーズンに
同級生の男子のネクタイを結んであげることがあったんだけど、この話と同じで正面からはできなくて、
村田みたいに後ろから抱え込むように結んだことがあるけど、かなり接近するやばいシチュエーションなんですよね。
彼氏ではない同級生だからこそドキドキしたのかも。
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