■マ王■

□散髪
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「なあ、ダガスコス〜その頭涼しそうだな。まあスキンヘッドは毎日が大変だろうけど。」
「ハイ陛下、毎朝髭を剃るついでに頭も剃るんです。ツルツルっと。慣れてしまえばすぐですよ。散髪代もいらないですし何より頭を洗うのも乾かすのも一瞬です。しかし涼しいかといえば、太陽光線を直撃した時は髪の毛があった頃よりは辛いものがあります!!。冬などはほら大シマロンの天下一武闘会に行った時がそうだったんですが、北風が刺すように痛いんですよ。」
「分かるよ。ダガスコスほどじゃないけどおれも去年の今頃までは丸刈りだったんだもん。短い時はこのぐらいの長さで刈りそろえてもらっていて。」
と親指と人差し指で2ミリほどの隙間を作って見せる。
「その黒髪をそんなに短く?なんと…。」もったいない という言葉を手を使って防ぐダガスコスだった。

王の間、つまり俺の部屋のテラスで若い組の男ばっかりのお茶の時間だ。おれとムラケンとヴォルフラム。ダガスコスが給仕をしてくれている。女性の前ではできない話題なんかもあるので俺には割と貴重な情報を得ることができたりする。

眞魔国に通うようになって地球の時間で数ヶ月が経つ。コチラの時間にするとそれはもう結構な時間になっている。
魔族の特徴だからか、身長の伸びがぴったりと止まってしまった。勝利は高1から高2にかけてが一番伸びたって言ってたから期待していたのに。せめて親父の身長は抜きたい。
ところが、爪やら髪の毛だけは伸びている。でも散髪は許して貰えず今、草とはいえ野球少年としてはありえない長さだ。地球に帰っている時に何度散髪屋の前で悩んだか、はたまた お袋に散髪を頼みたくなったか。しかし 眞魔国の王佐ギュンターに
「その美しい漆黒の御髪を切るですって!この世界では黒い髪は大変高貴で貴重なものなのですよ。切るなんてありえません!」
ってぴしゃりと禁止されてしまった。幸か不幸か、高校の校則でも男女ともに長髪は結んだりまとめていたらオッケーとなっている。
ちょっと前の上様モードよりチョイ長いぐらいなので、後ろでくくると尻尾にはなる。尻尾はまだ良い。問題は前髪だ!なんかグエンダルみたいにカッコ良くなりそうにないんだよね。

「渋谷その前髪あれだね。伸ばしていると顔がますます可愛らしくなっちゃうんだね。」
「可愛らしくは分かんないけど、邪魔だからピンで留めてるだけだ。そうだろ!似合ってないだろ!なんだよ村田は勝手に地球で散髪してきちゃって自分だけ何時もの髪型で!。肖像画の大賢者みたいにお前も伸ばしてくれよ!」
「だって今のムラケンは大賢者とは違う人間なんだよ。クセ毛だから伸ばしたらすごいことになるんだってば。たぶん」
うー この付き合いの悪いやつめ。
「僕もユーリの髪を切ることには反対だ。双黒の長い髪なんて今まで猊下の肖像画でしか拝めなかったんだ。民に実際のその美しさを見せてやるのは歴代の王ではできない、ユーリ陛下にしかできないことだろう。」
「むう。」
そんなこと言われてもねー ザンバラ頭のまま伸ばしているから毛先がバラバラのままで、格好悪いぞ!毛先のお手入れぐらいのしたいっすよ。
どうしようか…。

1週間後、ギュンターがまた一人で国境の俺たちの目が行き届きにくい地域へ視察に行くというので見送りに出た。

「なんと、ユーリ陛下自ら私めをお見送りいただくとは。このギュンター感激のあまり涙が止まらない…… って陛下!
なんと、その御髪はどうされたのですか?」
「ちょっとね。それでギュンターこれを。」
そう言って小さな日本で言う御守袋を渡した。
「ギュンターの旅の無事を祈ってね作ったんだ。グウェンダルとギーゼラにも協力してもらってね。」
「陛下…。なんと素晴らしい、しかもこれ良い香りがします。」
頬ずりしながらクンクンしている。
「おれが生まれ育った地球では、大事な人の髪や爪をお守りにして持ち歩く習性があるんだ(戦国時代とか戦争中とかだけどね)
それで、俺としてはギュンターのもちろん魔術や剣の腕前はすごいってわかっているけど、無事に帰ってきて欲しいから、この中に俺の黒髪が一房入っているんだよ、ユーリの天真爛漫 ってあの花でツェリ様経由で香料を作ってもらって。それも使ってあるんだ。」村田のアイデアで散髪の理由作りを。でも実際、逆に俺だったら欲しくないけどね。ギュンターの髪なんてヴォルフラムも嫌がっていたけど俺も怖い。
「なんと、私のためにその美しい黒髪を切られたのですか?」
だからギュンターのためじゃなくてただの散髪なんだけどね。
そんなに短くなったわけじゃないけど、ちょっとギーゼラにも手伝ってもらって毛先のお手入れをしたので、地球の散髪屋ではもちろんゴミ扱いの3センチぐらいの髪の一部を小筆の先ほどの束にしてがっちり縛って巾着に入れたのだ。
でも、まだうさぎのしっぽぐらいにくくれるぐらいには俺の髪の長さは残っている。長めのおかっぱだ。
ギュンターがいろんな汁を流しながら巾着袋を頬ずりしている。
「陛下のその暖かい御心遣い、ギュンターめは感動いたしております。道中いやこれから一生、この陛下に頂いたお守りをどこに行く時も肌身離さず身につけることにいたしましょう。」
ちょっとサブイボが出た。ただの散髪をしたかったんだけどやりすぎたかね。
寒気をこらえてギュンターを送り出した。
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