■グエユ置き場■

□膝の上の陽だまり
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膝の上の陽だまり

コンコン
ガチャリ
「兄上、ユーリを知りませんか?」
私の返事を聞かずにドアを開けるのは一番下の弟のヴォルフラムだ。

「しずかに。」

ヴォルフラムの探している双黒は私の膝の上に頭を乗せてソファで丸くなっていた。
クークーと安心しきってすっかり夢の住人だ。
「ユーリ、こんなところに。」

「こちらに来る時間を間違えたらしくて、寝てなかったようだ。」
「ユーリ、兄上の膝の上でこんなに可愛らしく寝ちゃってるなんて。少し妬けてしまいます。」

「今夜の来賓との晩餐までまだ時間があるから寝かせておいてやろう。
ちょっとそこの毛布を取ってくれ。」
「はい。」
ヴォルフラムが傍のベッドの毛布を取って自らユーリに掛けてやっている。
「ヴォルフラム。ユーリのことをもっとちゃんと見てやってくれ。」
「はい。」
「ほら、ここ、ちょっと隈が出来ている。」
「そうですね。寝不足って言ってましたね。」
我が弟ながら、この双黒の魔王陛下を見る目つきは眩しい程に愛情があふれている。
こいつのこんな顔は今まで見たことがなかった。
ヴォルフラムの最近の著しい成長は、ユーリの存在あってこそだ。
兄としても本人には言うつもりはないが、この魔王陛下にはもう頭が上がらない。

「この、男にしては華奢な肩に、この国だけでなく世界の平和を維持するという重圧がかかっているのだ。
本人が自覚してなくてもどこかに負担がかかっているかもしれない。」
「そうですね。」
「時々 こうやって 息抜きにこの部屋に来ることがあるのだ。」
「そうだったのですか。僕の膝より兄上の方が安心しているのでしょうか。」
ヴォルフラムが手を伸ばして私の膝に乗っている顔を撫でる。

メェ

「え?」
絶妙なタイミングでソファの肘掛にいた黒い子猫が鳴いた。
「あ、びっくりした。ユーリが鳴いたのかと。」
「まさか、そんな訳がないだろう。」

「ちょっと膝がしびれてきた。ユーリをベッドに移すぞ。」
「はい。 僕がやります。」

ヴォルフラムが それはそれは慎重に ユーリを毛布ごと抱きあげて
隣のベッドにそろりと寝かせる。流れるような手つきで靴も脱がせる。
しかし、その一連の動作がなんだか慣れているようで少し燗に触る。

ユーリの体温で温められていた膝が冷えていく。
名残惜しくて、弟の前だというのにベッドのユーリに近寄ってその額に唇を落とす。
「兄上。兄上もユーリのことを?」
複雑な表情で見上げるヴォルフラムに苦笑して、同じように額にキスをしてやる。
「あ 兄上!」
こんなことをコレにしてやるのは何十年ぶりだろう。
「お前も少し寝たらどうだ?今夜は遅くなると思うぞ。」
「いえ、大丈夫です。晩餐の時の正装を取りに行ってきます。兄上、ユーリをお願いします。」

先ほどソファに落ちていた陽だまりが黄昏てベッドに伸びていく。

もう少し その可愛らしい寝顔を眺めさせてくれ。
ソファに座りなおすと、今度は黒猫が膝に収まった。
ヴォルフラムが部屋に来る前に ユーリにやっていたように
黒い毛並みを幾度となく撫でる。

メェ

子猫はひとつ鳴いて 再び眠りについた。
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