■グエユ置き場■

□平和の種を蒔こう
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平和の種を蒔こう

「グウェンダルちょっと良いかな。」
可愛い双黒が私の部屋を訪ねて来た。
「どうした?」
「ちょっとお願いがあって、今度俺とまたスヴェレラに出かけないか?」
「あんな遠い人間の地に?」
「まだあそこは砂漠のままでなかなか草木が根付かないっていうから、俺が一度降らせた雨だけじゃあ無理なんだな。
なんとかしてあげる方法を考えていて。」
「ユーリ、お前は眞魔国の政治だけでも忙しいだろう?人間の国のことまで細かく考えることはない。」
「でも、俺 何人か知り合いになった人がいて…人間の国とか言う括りは分かる気がするけど、他の国の人もある程度は幸せになってくれないと、
あの乾いてつらい地域でまだ食うものにも飲み水にも困ったままだと思うと、ゆっくり寝られないんだ。」

全く、この小さい体にどうしてそんな大きなことを思いやる心があるのだろう。

「で、どうするんだ?」
「地球から種を持ってきたんだ。蕎麦っていうんだけどね、米や麦より荒れた地でも育つし収穫までの時期がちょっと早いらしいんだ。」
そう言って枕のような袋を背中から出して中身を見せた。
まるでユーリの瞳のような黒い小さな実がたくさん入っている。
「この真っ黒の皮を剥くと白いのが出てきて、まあこれをそのまま炊いたり、粉に挽いてパンや麺の材料にするんだ。」
黒い実のひとつを手のひらで崩して見せてくれる。
「なるほど。」
「収穫したあとにどうしたら食べられるものになるかどうかも村田と本を探してきて、いまこっちの言葉のレシピに書き写してもらっているんだ。」
「で、グウェンダルって土を耕すみたいな魔術使えるでしょう?」
「ああ、確かに私の魔術の要素は土だが。」
「前見たことあるけど、牛が鋤を引っぱるより力強く土を掘り起こせるなーって思っていて、
その力と俺の雨を呼ぶ力とか魔笛とかを利用すれば、もうちょっと効率よく畑が復活すると思うんだよね。」
「なるほど、それでその種を蒔くのか。」
「うん。これをとりあえず十袋ほど持ってくるのに二回もスタツアしてさ。穀物って結構重いよね。
半分は眞魔国の国境のあの乾いた地域にもつかってさ。」
「なるほど。それで 私とユーリの魔力を使うということなんだな。」
「うん。」
可愛らしい見た目と違って、芯がしっかりしている。
これが頑固で難儀なところもあるが、最近はその魔王としての成長著しいのが私には眩しく感じることがある。
ユーリ本人にはあまり言う気はないが、私はこの双黒の王の為なら弟たちより尽くしたいという願望が最近は強くなっている。
「では、スケジュールに旅の予定を挟もう。」
「あ、行きの日数ぐらいで大丈夫だよ。帰りはスタツアして帰ってこよう。」
「いや、向こうで雨を降らしたり魔術を消耗したら帰りの次元移動は難しいだろう。」
「でも、すぐに戻らなくちゃ、こっちの仕事が滞ってしまうじゃん。」
「ギュンターに頼んでおけば良い。」

私がすんなり賛成したからか、ユーリ陛下は尻尾を振りそうな勢いで喜びを顔いっぱいに出す。
その笑顔の可愛さにめまいがしそうだ。

「ユーリ陛下はかなり魔王としても成長してきたな。」
思わず 小さな双黒を抱きしめた。一瞬その身体が硬直するのがわかった。
「そ、そうですか?グウェンダルにそう言ってもらえて光栄です。」
「帰りにまたヒルドヤードに少し寄るか。」
抱きしめたまま耳元で囁くとうなじがほんのり赤く染まる。
「うん、仕事が無事に完了したらね。スヴェレラに小さくていいから池も作りたいんだ。
次からはスタツアして定期的に雨が降っているか見に通おうと思っているんだよね。」
「わかった、池でも湖でもいい。向こうに水貯めるための穴を掘ってやる。」
「うん。賛成してくれてありがとう。」

ユーリ陛下の笑顔を見てついこちらの口角も引き上げてしまった。
双黒でありながらその内は眩しく真白な心の持ち主。
まるで本人が持ってきた蕎麦の実のようだ。
その白さをいつまでも持っていて欲しいと願う。
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