■大人の裏マ■

□恋煩い ヴォルフラム Ver.
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血盟城の大賢者の肖像画しか知らなかった双黒の魔族のイメージは、
物語に出てくる架空の存在に近いものだった。ユーリに出会うまでは。

目の前に現れた双黒の魔王陛下は、僕と同じような背格好で、
へなちょこで、でも思わず息を呑むほどの美しさだった。
たまたま、魔族の作法を知らなかった彼が僕の左頬を打って婚約を申し込んだことにされたときは
取り下げてくれ と、かなり強く思っていた。


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バシャ
「ふうぅ、冷たいー。」

水に濡れた双黒は想像以上の美しさだ。
「ユーリ、風邪をひくぞ早く出ろ。」
眞王廟の泉から手を掴んで引き上げてやる。
ユーリは過保護だと言ってこういう扱いは嫌がるのだが、
こちらに帰ってきた彼にコンラートやギュンターより先に触れたいと、
最近はできる限り僕が一人で出迎えさせてもらっている。

「また猊下と来たのか?」
「村田ブースターがあったほうが確かに楽なんだよね。」

「ごめんねーお邪魔虫は消えますからー。」
「いえ、猊下、決して猊下をないがしろにしたいわけじゃ。地球ではユーリを猊下にお願いするしかないですし。」
猊下は鋭い。ユーリと同じ いや元祖双黒のこの方にはなぜか頭が上がらない。
ユーリと同じ年齢ということだが、ユーリとはまた違う深い雰囲気が漂っている。

「ヴォルフラムってなんか村田への扱いが俺と違うなー。」

じつは、ユーリのこのセリフが僕は好きなのだ。本人は自覚していないようだけど、
妬いてくれているように感じられて。

「バカなことを言っていないで、さっさと血盟城に行くぞ。」

「うん。あ、アオも連れてきてくれたのか?」
「ああ、僕の馬を出そうとしたら、寂しがっていたからな。誰も手綱を持つことなく、ここへついて来たんだ。
ユーリがくるのがわかっていたのだろう。
動物の勘とはすごいものだ。」

「そっか、えらいぞアオ。ヴォルフもありがとうな。」
ついでのように礼を言って、僕に笑顔をくれる。
漆黒をその身に宿しながら、太陽のように暖かい。無意識についでを装うのが奥ゆかしくていい。
僕はユーリに出会って毎日毎日、新しいことを知るのだ。それこそユーリがいてもいなくてもだ。僕自身のことさえ新しい境地を切り開けている。
愛しい人のためにすべてをかける。
それがこんなにも幸せなことだと知った。

「おい、ユーリ。まて。もう少しちゃんと髪を乾かさないと。」
「走っているうちに乾くって。」
「そんなことをすると余計に風邪をひくぞ。そこに座れ。」
椅子に座らせたユーリの後ろに立って、タオルで髪を拭いてやる。
「今は昼を過ぎたところなんだが、ユーリは何か食べてきたのか?」
「うん、向こうを出たのは学校終わってすぐだったから、夕方だった。小腹が減ったくらいだ。」
「じゃあ、お茶菓子ぐらいでもなんとかなるか。」
「うん。」
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